8月31日 グラスゴー→テイ湖→グラスゴー: ダンケルド、アバーフェルディ、スコットランド・クラノグ・センター 今日はまる12時間かけて、テイ湖Loch Tayの畔にあるスコットランド・クラノグ・センターに行ってきた。クラノグCrannogとは、スコットランドとアイルランドにみられる湖上住居のことで、紀元前3000年から17世紀まで存続してきたという。クラノグに関する考古学的研究は非常に進んでいる。それは、水中考古学による多大な成果を示すものだ。建築的にも圧倒的な魅力がある。部材が水中に沈んだまま残存しており、杭柱、垂木、片欠き仕口をもつ梁などが多数出土(出水?)しているのだ。これをもとにすれば、かなり実証的な復元が可能となるわけで、テイ湖においても、ケルト青銅器時代の水上ラウンドハウスが復元されている。ちょうど一年前に視察したフラグ・フェンは低湿地遺跡で、杭や柱などをたくさん残していたが、それはラウンドハウスの部材ではないから、復元されたラウンドハウスの実証性はあまり高いとはいえない。一方、テイ湖の水上ラウンドハウスは、わたしが手がけた御所野や妻木晩田の焼失住居を上まわる実証性に裏付けられているものかもしれない。
センターには、3人の女性スタッフがいて、
「わたしは日本で、こういう復元の仕事をしているんです。ラウンドハウス(竪穴住居とは敢えて言わなかった)なら、もう10棟以上建てましたよ」
と言うと、途端に目を輝かせて、
「E-MAILアドレスを教えてくれませんか? 情報交換しましょうよ!」
とのお言葉を頂戴し、大喜びで名刺をさしあげた。
気になったのは、ブロッホ(石造円塔)との親縁性である。材料は石と木で異なるが、立地と形態に限ってみれば、ブロッホとクラノグはあまりにもよく似ている。スコットランド滞在わずか1週間の日本人ですらそう思うのだから、これに関する論文はすでに多々発表されていることだろう。


それにしても、長旅であった。グラスゴーからダンケルドまで、列車で1時間半。ここで昼食をとりながら、1時間半バスを待った。バスに乗って40分、アバーフェルディという町に着いて、湖までわずか3マイルまで迫ったのだが、交通手段がない。町にタクシーは1台しかないそうで、インフォメーション・センターで予約してもらったものの、先約がいっぱいいて、ここでも1時間半待たなければならなかった。いや、待ったと言うべきではない。
「待つのではない。なにかをするのですよ、この町で!」
とインフォメーションの青年に諭された。
たしかに、そのとおりだ。時間に追われてあくせくせずに、イギリスの田舎町を楽しむ余裕すらないなら、なんのためにこの国に来たのかわからない。そもそも、わたしはなぜイギリスに来ているのだろうか。それは、イギリスの田舎と自然と遺産の魅力に憑かれてしまったからではないのか。
青年のアドバイスにしたがって、町のウォーター・ミル・ハウスに行ってみた。そこは2階がブックショップ、1階がカフェとギャラリーに改装され、大勢の客で賑わっている。このカフェのキャロット・ケーキと紅茶が絶品だった。あらためて記憶を辿れば、本物の茶葉で入れた紅茶を飲んだのはイギリスにいてはじめてのような気がする。ティーバッグの紅茶にもおいしいものはある。しかし、本物の茶葉に叶うはずはない。


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- 2005/08/31(水) 23:49:35|
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