
五月になると、御所野はタンポポで埋め尽くされる。町には桜が満開、遺跡にはタンポポが花盛りだ。センター施設の前にひろがる芝張りの広場だけ、芝の成長が遅くて緑色は薄いが、その周辺では完全に緑を取り戻している。雑草の生命力は強い。雑草の中にタンポポは咲いている。緑の夜空に咲く黄色い星屑のようだ。

タンポポの漢字名は「蒲公英」という。蒲公英(ほこうえい)とは、なんとも堅苦しく、馴染みの薄い呼び名だが、どうやら漢方薬としてのタンポポの名称でもあるようだ。厳密に言うと、タンポポの根を乾燥させた生薬が蒲公英であって、健胃・利尿に効がある。蒲公英は中国語ではタンポポそのものの呼称でもあるのだが、日本の場合、草としてのタンポポを「蒲公草」と呼び分けることもあった。
和名「たんぽぽ」の語源については諸説あるようだが、一説に「たんぽ」は湯たんぽの「たんぽ」と同義で、種子の冠毛が丸く集まる姿を「たんぽ」に見立て、「たんぽ穂」と呼んだのが始まりともいう。「たんぽぽ」の語感は可愛らしく、愛嬌があって、たとえば「たんぽぽのような少女」と表現すれば、田舎臭いけれども、純で明るくて、まんまるな瞳をもった女の娘をイメージさせるだろう。

御所野の土屋根焼却実験跡の脇には、ヤエザクラとヤマザクラも咲いていた。サクラはバラ科であり、ヤエザクラ(八重桜)はたしかにバラを連想させる改良品種の傑作ではある。一方、ヤマザクラは野生種であって、中国では「野櫻」とも「山櫻」ともいう。ヤマザクラの素朴な美しさは日本人の美意識をくすぐるけれども、驚いたことに、御所野の焼失住居跡で出土した炭化材のうち2例がヤマザクラに比定されている。縄文人は、すでにヤマザクラの美を知っていたのである。
ヤマザクラももちろんバラ科だが、バラにはみえない。西日本ではヤマツツジも咲き乱れている。それは、わたしが最も好きな花だ。ヤマツツジはもちろんツツジ科であって、バラではない。バラの対極にあるのが、ヤマツツジだとわたしは勝手に思っている。
「酒とバラの日々」という有名なバラードをご存じであろう。このバラとは、都会の夜に似合う厚化粧した女性のこと。ヤマツツジには、その真逆の美しさがあって、山の中で見惚れているうちに、根株ごと抜いて家に持ち帰りたくなる。いちど真剣にヤマツツジを自宅の庭に移植しようとした経験もあるのだが、庭に植えたヤマツツジは、山でみる端麗な容姿が霞んでみえた。山に咲くヤマツツジが稟として美しい。
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- 2006/05/09(火) 02:13:42|
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