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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

雪の夜(Ⅴ)

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メアリは起き上がるとカーディガンを羽織り、急いでマフラーを巻き付ける。かんぬきを開け、白く曇った窓を開くと白い少年が笑顔を浮かべて立っていた。
「今晩は、メアリ。また会えて嬉しいよ。」
その言葉に、メアリも嬉しそうに微笑んだ。
「今晩は、ヴィオレット。」
少年は申し訳無さそうに御免よ、と謝った。
「皆が寝静まった時間じゃ無いと出てこられないのだ。遅くなって悪かったね。」
ヴィオレットはちらりと窓際に置かれた鏡に目をやった。つられて鏡を見そうになったメアリの目の前にヴィオレットの手が伸びる。
「約束だろう、見てはだめだよ。」
そうだった。慌てて視線をヴィオレットに戻す。少年は満足そうに笑うとメアリのマフラーに目を止めた。
「おや、可愛らしい白のマフラーだね。お揃いだ。」
急いで巻いたマフラ-は半ば首から落ちかけていた。メアリはしっかり巻きなおすとにっこり笑った。お揃い。なんだか素敵な響きだ。
「一昨日は素敵な贈り物をありがとう。あんまり嬉しかったから昨日も何度も絵を見直してしまったよ。」
ヴィオレットはずっとにこにこしている。メアリは自分の贈り物が大変気に入って貰えているのを見て大満足だった。
「ねえ、これ見て」
ベッド脇に立て掛けたスケッチブックを持ち上げる。興味深そうに覗き込むヴィオレットの顔をちらと見ると、パラパラとスケッチブックを捲った。
「ほら、スミレよ」
紙の上にはひと株のスミレが描かれていた。一昨晩と同じように鉛筆に水彩で着色してある。目を真ん丸にしてその紫に見入るヴィオレットがほうとため息を漏らす。
「ううん…これは素晴らしい、これがスミレか。話には聞いているよ。」
想像していたよりも小さい花なんだねえと、しきりに感心している。
「綺麗だねえ。」
ヴィオレットは先ほどよりもっと嬉しそうににこにこしている。メアリの心臓は嬉しくてわくわくと音をたてている。小さな指が嬉しそうに次のページを捲る。
「それは昨日描いたの。今日はポピーよ。」
冠のようなおしべを取り囲む軽やかな花びらの可愛らしい花が紙の中で風に揺れている。
少年は瞳をくるくると嬉しそうに光らせる。
「わあ、可愛い花だなあ…これは鉛筆描きだね。ポピーの色は何色?」
メアリは得意げに説明する。
「ポピ-はいろんな色がある花なの。赤、白、黄色、橙色。色々あるわ。」
ふうん、色々なのか…と、花の色を想像する少年に、メアリはえーと、と言葉を続ける。
「ヴィオレットの好きな色を塗ろうと思ってそれは鉛筆のままなの。」
少年の瞳がまたくるくるきらきらと輝く。
「本当?」
「うん。好きな色を言ってちょうだい。」
メアリはこれも用意しておいた三十六色の色鉛筆を出して来た。去年のクリスマスに貰った物で綺麗な箱に収められた、メアリのお気に入りだ。ヴィオレットは暫く迷っていたが赤を選んだ。メアリはたくさんの色鉛筆の中から紅色を選ぶと白いポピーに色を付けはじめた。ヴィオレットは面白そうにその作業を見守る。

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塗りながらメアリはヴィオレットに話し掛けたが、ヴィオレットが黙っているので作業を止めて顔をあげた。ヴィオレットは困ったような顔をして立っていた。それを見てメアリは慌てて、
「いらなかったらいいのよ」
と付け加えた。今度はヴィオレットの方が大慌てで「違うんだよ」と手を振った。
「とっても嬉しいんだけど、お返しに本当に何もあげる事が出来ないんだ。そう言う規則なんだよ。」
と残念そうに謝った。メアリはいいの、といって笑った。
「そのかわり、私が色を塗っている間色々お話してほしいの。」
ヴィオレットはおかしそうに笑う。
「そんな事でいいの?お返しにならない気がするけど。」
メアリは楽しいから良いの、とヴィオレットににっこりしてみせた。
そう、と応えたヴィオレットは、それじゃあ何にしようかと腕を組んだ。
メアリは頭の中のいくつも不思議の一つを、早速質問する。
「ねえ、一昨日言ってた星屑って、なあに?」
少年はああ、ちょっとまって、と頷くとズボンのポケットを探った。何がでてくるのかしら、とメアリは手を止めてヴィオレットを見た。ポケットの中から出て来たものはやはり布に包まれた金平糖のような形の石で、以前見せてもらった月の結晶にも少し似て、飴玉のような半透明の石の中心が少し光っている。石同士がふれあうとリン、と鈴のような音を出す。
「意外だけれど月の結晶よりもこちらの方が強いんだよ。ほら、持ってみて。」
ヴィオレットは布ごとメアリの手に星屑を渡した。メアリの小さな掌の中で石はリンリンと微かに音をさせる。 (続)-KA-



 *童話『雪の夜』 好評連載中!
   「雪の夜」(Ⅰ)
   「雪の夜」(Ⅱ)
   「雪の夜」(Ⅲ)
   「雪の夜」(Ⅳ)
   「雪の夜」(Ⅴ)
   「雪の夜」(Ⅵ)


  1. 2006/12/20(水) 20:19:16|
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忘年会2006

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 今し方まで眠っていた。教授室の椅子を横に並べ、そこに俯せになったまま2時間の睡眠。いつもは椅子を4つ並べるのだが、今日は3つにしたのでバランスが悪く、もうひとつ寝心地がよくなかった。
 2時間半前にゼミの忘年会が終わり、元気のいい連中は2次会に繰り出していったが、わたしは疲れていたので、チャックの車で大学に送ってもらった。今年の忘年会の幹事は3年女子。会場はしいたけ会館近くの「くま」という居酒屋であった。
 会場には、ずっと昭和の演歌が流れていて、どうしてまたこういう会場になったのか、と思っていたら、まもなく学生たちのカラオケがその演歌を消してしまった。いや、結構です。そうそう、今年もまた誕生日のプレゼントを学生諸君から頂戴した。創業明治十年日本橋國「味岡革鞄」の名刺入とキーホルダー。牛革製の高級品だが、小物なので、すぐに無くしてしまいそうで、ちょっと心配だな。また、OBの西垣くんからもダイアナ・クラールのCDがプレゼントとして届いていてた。いや、みなさん、まことにありがとうございます。こんどの誕生日で、めでたく50歳だ。

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 昨日は午前に鳥大地域学部の大学院で講義をおこなった。「環日本海文化論」というタイトルのオムニバス講義で、シラバスらしき資料をはじめてみたときの正直な感想は、「?・・・?」。これ以上なにも言わないが、「?・・・?」という感想を抱いていたのは、わたし一人だけではなかったようである。
 昨日の受講生は26名。うち中国と韓国の留学生8名と若干の社会人を含む。わたしが得意とする「理解度チェック」方式を試そうかどうか、悩んでいたのだが、数分を残してスピーチが終わったので、ごく簡単な質問をしてレポートを書いてもらった。結果、本学の学生と比べてどうなのか、と言うと、本学の学生はわたしのスピーチに即した回答がとても多いのに対して、鳥大の院生はもう少し自由度のある回答をしてくる。シニカルな表現も若干含まれている。だから、どうってことは全然ない。鳥大の院生がとくに優秀だとも思わない。ただ、「理解度チェック」レポートの効果はやはりあって、出席者の数と名前をきちんと把握できる。これは講義する側にとって重要なことだ。

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 それにしても、講義の準備はいつもながら大変だ。わたしの演題は、
   「建築からみた環日本海 -アムール流域と朝鮮半島」
で、「地域生活文化論」講義の3回分を1回に圧縮したような内容にしたのだが、どうも焦点がいまひとつ定まらない。いくつかのパワーポイントの切り貼りで授業資料を作ればいい、と安易に考えていて、資料作成にとりかかったのは月曜日の午前2時ころから。これがなかなかうまくいかない。京都発17:11発のスーパーはくとの車中でも、しばらくパソコンを操作して資料を作り続けていた。姫路をすぎたあたりで、ようやく目途がたち、ほっとしてカニ寿司の弁当を食べたら、そのまま眠りに落ちた。目が覚めたら鳥取駅をすぎていた。おかげさまで、ひさしぶりにJR倉吉駅のプラットフォームに立ち、21:01発のJR快速とっとりライナーに乗って鳥取駅まで戻ってきた。

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 鳥大での講義を終えたあと、加藤家に立ち寄った。素屋根はすでに完成していて、オモヤのトタン屋根外しが始まっている。どうやら、背面の下屋をまず仕上げ、それから大屋根の施工に移行していくらしい。正直なところ、工程はだいぶ遅れている。基礎・床の修理と立て起こしに時間を要したからだが、問題は居住者のO君1号がどこまで記録を採るか、であろう。卒業論文にとって記録は必要不可欠だが、記録に終始してしまっては論文にならない。可哀想だが、O君に正月はなさそうだ。ほかの4年生もたいして変わらないだろうが。

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↑背面下屋での作業 ↓五右衛門風呂は再生可能だろうか?
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  1. 2006/12/20(水) 00:22:30|
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本家魯班13世

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