「どうしよう・・・。何からはじめたらいいのだろうか?」と、不安を抱きながら手付かずの状態で始まった『倭文日誌』の「加藤家住宅修復工事録」も気がつけば86日目を迎えている。記録をとりだした当初の01号は、写真の撮影方法や文章の構成など、多くのことに困惑し、なかなかうまく作業を進めることができなかった。しかし、今思えば、そのような経験があったからこそ、自分自身の実力のなさに気づくことができ、またそれを改めようと決心することができた。これも
『倭文日誌』やLABLOGをご覧になっている皆様の支えがあってこその結果だと思っている。
このように、多くの人に支えられて進められてきた修復工事であるが、本日はいよいよ大屋根軒付の木工事に入ることになった。加藤家住宅は建立当初、茅葺き屋根であったのだが、現在は鉄板葺きの屋根に変わっている。その理由は茅葺き屋根の維持・修理に関わる負担が大きすぎることにあるのは自明であろう。現在、茅葺き屋根の全面葺き替えには1500~2000万円の経費が必要であり、当然のごとくその費用は住民に大きな負担を与えており、茅葺き民家の空き家化を促す主因となっている。そこで、「茅葺き」屋根に鉄板(トタン)を被せた屋根の外観を継承させた「トチ葺き風鉄板被覆屋根」を研究室で開発することになり、O1号もその
部分CGを制作した。この屋根は、社寺建築に常用される「トチ葺き銅板被覆屋根」を応用したもので、実質的には「板葺き鉄板被覆」であり、軒付のみトチを積み上げる。材料は地域産のスギ材である。すでに倉吉で部分的な
原寸模型も完成している。
トチ葺きの軒付を応用させることにより、茅葺き屋根独特の厚みを継承し、中空層を利用して断熱の便をはかり、鉄板の下にはゴムアスというシートを張って防水機能を強化している。加藤家住宅の修復で開発され、施工されたこの屋根が、今後、周辺の茅葺き民家に波及していくかどうか、注目されるところである。

<↑軒付詳細図 ↓コアを葺く大工さん>

これまでの工事で、軒には木負・裏甲・裏板が取り付けられている。本日、とうとう
コア(杉材)を3枚ずつ裏板の上に葺き重ねていく作業が始まった。ところが、以前紹介した日野のコア職人さんは、現在休業中。池田住研の社長さんのお話によると、島根県や岡山県、京都府の職人を当たってみても、コア職人がいなかったそうである。結局、兵庫県豊岡市に1ヵ所だけ工場があり、地域産材でないのは残念だが、加藤家住宅修復工事に豊岡のコアを採用することになった。葺き終わったコアの上には地域産材のトチ(スギ材)を葺き重ねていく。軒に空気を通すため、トチは台形に加工している。また、修復後の加藤家住宅の屋根は2重軒付で、1段目に4枚、前に突き出た2段目に2枚のトチを重ねる。鉄板を被せるのは2段目だけであり、2段目の軒付が外からみえる仕組である。来週以降もこの作業が続いていく。

<↑トチを葺く大工さん ↓現在の軒付(茅葺き屋根の厚みが表現されている)>

最後になったのだが、ここで1つお知らせしなければいけないことがある。01号は、「ローコストによる文化財古民家の修復」というテーマで卒業論文を執筆しているのだが、その量が200ページにも及ぶ。公聴会を控えた現在も、レイアウト作業に追われている。正直なところ、工事記録をとりながらレイアウト作業もこなすというのは困難な状況にある。そこで、『倭文日誌』を後輩へと引き継ぐことを決心した。01号が思うに彼は大変優秀な学生であり、まちがいなく01号以上の成果を本研究にもたらしてくれるであろう。01号がそうであったように、修復工事の現場に立ち会うことにより、大学の授業で学ぶことのできない経験や知識をふんだんに吸収してもらいたい。それでは、これから『倭文日誌』を引き継ぐ学生を紹介したい。こういうわけで、本日が01号の最後の工事記録となりました。これまで『倭文日誌』をご愛読いただいた皆様には改めて感謝申し上げます。
「本当にありがとうございました。」 (01号)

本日より『倭文日誌』を引き継ぐことになりましたMr.エアポートです。現在2回生で昨年より加藤家の修復プロジェクトに参加しています。特にイロリ・自在鍵の復原ではリーダーを務め、無事加藤家にイロリと自在鍵を設置することができました。今回この『倭文日誌』の引き継ぎを命ぜられたことを大変光栄に思います。またその反面、ここまで『倭文日誌』を綴ってこられた01号さんのようにできるかどうか不安を感じます。まだまだ未熟な自分を鍛える意味で、この『倭文日誌』を綴っていきたいと思います。今後多くの方々にお世話になると思いますが、教授や01号さん、先輩方、工務店さんとともに頑張っていきたいと思います。どうか暖かく見守ってください。また何かありましたら遠慮なくコメントをよろしくお願いします。(Mr.エアポート)
- 2007/02/10(土) 17:32:27|
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