セゴビアの演奏をネットで見た後、よせばいいのに、ジョー・パスのDVDを見てしまった。ベトナムで安く仕入れてきた大量のDVDがほったらかしのまんまだったもので、どれから手をつけようか悩んだんだが、“The Genius of Joe Pass”に決めてパソコンに挿入し、ヘッドフォンをつけてその映像をみた。いや、これも凄い。ただの音源として聴くジョー・パスよりも、映像でみるジョーパスのほうがはるかに凄みがある。かれの『ヴァーチュオーゾ』シリーズはもちろん何枚かもっている。技術が高いのはよくわかるんだけれども、リスニング音楽としてはもう一つで、そんなに好みではなかったのだが、ライブの映像には目を見張った。ソロのジャズ・ギターという分野では、前人未踏ではないか。

よくよく考えてみると、ジャズ・ギターのソロ専門家というのは、ジョー・パス以外にいないのではなかろうか(「いや、いる」というのなら教えてください→渡辺香津美レベルでは受け付けませんよ)。たしかジョー・パスはドラッグ中毒のため長期服役していて、その間ひたすらソロ・ギターの腕を磨いたんだよね。おもしろいのはパスの演奏姿勢。上下の写真にみるとおり、パスは椅子に坐ってソロ・ギターの演奏をしている。ギターの角度はクラシック・ギターのそれに近いが、足踏台を使っていない。足踏台を使わないかわりに、ギターにストラップを付けて、ストラップでギターの角度を調整している。立ち姿勢のための小道具(ストラップ)を坐り姿勢でも使っているわけだ。もう一つ注目したいのは指。パスはピックを使わない。爪も使わない。指の腹を使う4フィンガー。つまり、わたしとまったく同じ奏法である。この点からみれば、ジョー・パスの奏法はアコースティック・ギターに応用しやすいはずだ。
といっても、難度は高い。高すぎる。技術はもちろん、和声も複雑で、「代理コードの代理」みたいなコードをいっぱい使うらしい。教則本もたくさん出ているので、最近一度買おうとしたのだが、たぶんついていけないだろう思って断念した。

それにしても、心配になるのはジョー・パスの後継者と呼べるギタリストがジャズ界にあらわれていないこと。クラシックの世界だって、かつてギターは伴奏楽器にすぎなかったはずだが、ある時期、だれか知らないけれども、ソロ・ギターの技術を飛躍的に高めた人物がいて、それから長い時間をかけて今のような素晴らしい音楽レベルを確立していったんだろう、とわたしは勝手に推測している。ジャズの世界では、ジョー・パスがその「だれか」なのではないか。ジョー・パスが亡くなったら、かれの技術を継承するギタリストがいなくなるとすれば、それはとても淋しいことだ。直系の弟子を何人か育てるまで成仏してもらっては困る。ジョー・パス直系の一門が独特の坐り方、ギターの角度、指の腹で弾くフィンガリングの伝統を受け継ぎ、ジャズギター・ソロのレベルを大きく高めてほしいものだ。そうすれば、いつかクラシック・ギターとはひと味違ったソロ・ギターの芸術分野が確立できるであろう。
- 2007/10/04(木) 00:00:56|
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