
チェッキン・テガラランの棚田からしばらくウブドに向かって車を走らせると、水田の脇の広場に1棟の高床倉庫を発見した。バリでは、この種の米倉をルンブンと呼ぶ。3年前にも、数寄屋のような農家のなかで1棟のルンブンを発見し驚喜したが、今回は水田の脇に倉が存し、床下に男たちが集ってなにやら戯れている。
高倉は四阿(あずまや)でもある。バリの高倉は屋根倉であり、急勾配の屋根の下に籾や穂を納める。それが証拠に、円盤のような鼠返しが天井の下についている。床から50㎝ばかりあがったところに敷かれる簀の子は四阿の床で、村の男たちは簀の子の上で話に興じ、酒を飲むのだ。よくみれば、このルンブンを超えた遠い向こうの集落にも数棟のルンブンが軒を連ねている。まだ、こうして茅葺きの屋根倉が少しだけ残っている。放置しておけば、まもなく喪われる施設であるに違いない。
日本にも同類の施設がないわけではない。沖縄や奄美に残る屋根倉がまさにこの類の穀倉ではあるけれども、本土ではさてどうか。米を収納するのは倉だから、土蔵か。しかし、たれも土蔵でくつろぐことなどない。家の中では「縁」が上の簀の子ににている。戸外で人が集う場所はどこだろうか。敢えてあげるとすれば、鎮守の森か。残念なことだけれども、ルンブンに見立てられる施設が思い浮かばない。

バリは世界遺産とは無縁の島である。が、世界遺産であってもなんら不思議ではない。類まれな島の地形と植生、ヒンドゥ教の世界観を表現するおびただしい寺院と祭祀、そして棚田に代表される文化的景観。残念なのは、農家を中心に伝統的民族建築が急速に喪われ始めていることだが、これとてまだ手遅れではないだろう。
日本でもまるごと世界遺産にすればよいと思う島が2つある。ひとつは対馬、いまひとつは隠岐だ。頼りになる制度はもちろん「世界遺産」だが、そんなだいそれた杖を振り回しても骨折り損だと叱正されるならば、とりあえず「文化的景観」の制度から出発するしかないだろう。(8日の稿、完)

- 2008/03/12(水) 01:42:04|
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