伎楼通い 利蔵と伸太は中国の女とばかり遊んでいた。「日本語の分かる女」という条件を伎楼の主に伝えると、相手してくれるのは中国の女ばかりだったのである。すでに、二人とも目の下にうっすらと隈をっつくっている。伸太は「腰が痛い」と嘆き、利蔵は「膝に痣ができました」とこぼすのであった。
「ならば、遊郭通いをやめればよいではないか!」
と舌右衛門は二人を叱責した。
「昔からな、男を骨抜きにするのは酒色だと言われていることぐらい、おぬしたちはよく知っていようが。中国の宦官たちは、若いころから皇帝に酒とおなごを与え、自分の思い通りに操ってきたのだぞ」
「ほとんど骨抜き状態でございます」と伸太。
「阿呆! そもそも、なぜ遊郭に通っているのか、わかっているのか?」
「必要な情報を集めるためでございます」
「であろうが。だからこそ、わしはエゲレスのおなごを探し出したのじゃ」
「しかし、利蔵もわたしも言葉が分かりませんゆえ、もうひとつ情報集めになりませぬ」
「だから、どうだというのじゃ」
このころふたりは伎楼遊びにも飽きだしており、多くの中国女と比較して、「メイドの小李のほうが可愛い」と思うようになっていた。それに、小李は日本語がべらぼうに上手く、なんとでも話が通じるのである。これ以上の情報源はない。利蔵が思いきって切り出した。
「王賢尚さまはメイドに伽をさせてもかまわぬ、とおっしゃいましたが、小李を部屋に呼んでよろしうございますか?」
「伸太はどうなのじゃ。小李を利蔵に与えてもかまわぬか?」
「いえ、わたしも小李を好んでおりますれば」
「ならば、かわりばんことするか?」
「いえ、そういうわけには・・・・ご勘弁ください」と利蔵。
「ならば、奪いあうしかあるまい。小李に訊いてみよ。ふたりのうち、どちらを好いておるのかと?」
「負けたほうがミレットを頂戴するということでよろしうございますか?」
「ミレットは日本語がしゃべれんであろうが。あのポルトガル娘から話を聞くことができるのはわしだけじゃ」
「それは狡い・・・」
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- 2008/04/09(水) 00:06:36|
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