高2の秋、マットという中学時代の同級生が、突然、わたしの家を訪ねてきた。マットは八頭校、わたしは西高に通っていた。同級生で河原中学校から西高に進学した生徒はわたしだけ。マットも、ハジーも、クンベーも,、モリタも、ツグユキも・・・みな八頭校に進学した。どいつもこいつも個性的で愉快な奴ばかりで、マットは漫画と美術に凝っていた。その秋、連中は集まってなにかを企んでいた。
「学園祭で演劇をやるから、そのテーマ音楽を作曲して欲しい」
といきなり依頼された。奴らは手塚治虫の『火の鳥』ヤマト篇を舞台で上演するのだという。同級の女子学生のなかでも選りすぐりの可愛い娘をぜんぶ集めて芝居をするのだ、と付け加えてマットは高笑いした。このとき主役のヤマトタケル(男役)を演じたのが、ほかでもない、我が家の患者である。学校がちがうのだから、そのとき、わたしは彼女の存在を知る由もない(出会ったのは4年後のこと)。互いの存在を知らないけれども、彼女は高2のとき、わたしが作曲・演奏した「火の鳥」のための前奏曲をなんどか聴いているわけだ。
いまキング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』を聴きながら、この雑文を書いている。前にも述べたように、わたしは
ブリティッシュ・ロックがあまり好きではなかった。附中から西高にあがってくる秀才たちは、こぞってブリティッシュ・ロックを愛聴していたが、わたしはああいうクラシックまがいのロックがどうしても性にあわない。ひたすらアメリカ音楽に触覚をのばしていた。ただ、『新譜ジャーナル』だったかなんだか忘れてしまったけれども、その手の雑誌にキング・クリムゾンのアコギ・フレーズが紹介してあり、それをつま弾いてみると、とても気持ちよい。そのコード進行は「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の出だしと同じだということに最近になって気づいた。当時はそんなことを知るはずもなく、軽い乗りで、演劇「火の鳥」の前奏曲に使ってみようと決めたら、すらすらすらと曲が書き上がってしまった。
録音は、おんぼろラジカセを使った2重録音で、マーチンD28そっくりのモーリス6弦ギターに、ハジーから借りた12弦ギターを重ねた。もちろんインストルメンタルである。録音にはクンベーが付き合ってくれたはずだけど・・・よく覚えていない。
この曲の評判は良かった。八頭校の仲間たちは、一様に「凄い」と口にした。クリムゾンからのパクリを含むとはいえ、若干16歳で、よくあれだけのインスト曲を創作したものだと今でも思う。
クンベーが「あのころ」や「
遠くはなれて」の入ったテープの音源を送信してくれてから、わたしは「『火の鳥』のための前奏曲」の音源がどうなってしまったのか、気になってしかたなくなり、かれに「火の鳥」の音源はもっていないのかい、とメールで訊ねたのだが、その返事は「知らないよ」という素っ気ないものだった。(続)
- 2009/06/06(土) 00:09:24|
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