仙台城の石垣崩落 3.11以来、「優先順位」という言葉をしばしば耳にする。大震災以降における予算配分の優先順位、ということである。当然のことながら、原発事故の収束、除染、被災者の生存・生活に係わる施設等の復旧などが最優先事項であり、「文化財は最後」というのがだれしも共有する認識であった。3次補正予算が成立し、ようやく文化財復旧の事業が動き始めたようだが、文化財の内側でも優先順位がある。わたし個人の意見を述べておくと、やはり被災者の生存・生活に係わる物件に優先権があり、その点、「遺跡」は最後の最後におしやられても仕方ないものではないか。文化財に指定・登録された民家・社寺建築などの建造物には、住まい手や宗教活動に関わる人びとがいる。それらの関係者が安全かつ安心に利活用できる状態に早く復旧しなければならない。一方、たとえば縄文集落遺跡で整備された復元建物や覆屋が倒壊したとしても、人間の生活・生業にはほぼ100%影響を与えない。だから、しばらくのあいだブルーシートを被せて放置しておくことになるだろう。
仙台城の石垣は大地震によって広い範囲で崩落し、きわめて危険な状況を招いている。生活道路に積石が雪崩落ち、車道に柵がめぐらされて、通行禁止になっているのである。当然ことながら、優先順位は上位にあり、第3次補正予算で石垣修復の事業が始まった。

仙台城は伊達政宗の居城として知られる全国屈指の近世山城だが、国の史跡に指定されたのは平成15年(2003)に下る。つい最近のことだと知って、驚いた。本丸の一部を護国神社、二ノ丸を東北大学のキャンパス、三の丸を仙台市立博物館が占めていることが影響したのだという。しかも、史跡内に車道が走っている。施設相互の連絡のためばかりでなく、市民の通勤路の一部としてしばしば渋滞を引き起こすほどの車量があったと聞く。おまけに、仙台はパンダ騒動で揺れている。城内道路は、パンダを飼う動物園のアプローチになるので、パンダお目見えまでには、どうしても石垣を復旧せよ、とのお達しが届いているそうだ(こんなこと書くと、ジャニーズ批判の火に油を注ぐかな?)。
石垣修復の難しさは、鳥取城で思い知らされている。あの複雑な石垣の立面を正確に測量し、一つひとつの石に番付し、解体して積み直す。大変な仕事であり、事を急ぐと、誤った復元になりかねない。しかし、だから、「完璧な復元工事」を強く要求すべき時期でもないだろう。石垣の積み方と生活道路の復旧のどちらを優先すべきかと問われれば、パンダの問題を棚上げにしても、「生活優先」であろうとわたしは思う。限られた時間内にできるかぎりの努力をして復旧していただくしかない。
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- 2012/02/02(木) 00:00:04|
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