
自分はアガったりしない、と思っていた。
「古民家の匠」の会では数十人の前で演奏したけれども平気だったし、最近は教授室に
リファーレンモデル¥500を隠していて、学生や親しいお客様がやってくれば拉致し、「ちょっと1曲聴いてって!」と強引に練習曲を聴かせていた。そして、先週末の加藤家欄間障子張り作業の後には、
手羽先を焼くという口実のもとに、学生やN社長の前でリハーサルをしたのである。本番前夜も、大きな鏡に自分の演奏する姿を映しながら、繰り返し予定の3曲を弾き続けた。
それが、それが・・・
六弦倶楽部(むげんクラブ)の
第2回練習会が開催された。
米子駅前の「夢」という小さな喫茶店が会場で、10組参加した。たぶん総勢15名ぐらい。店内満席状態である。最初にクジをひいた。わたしの札には「6」と書かれていた。6番目。なかなか良い順番である。倉吉から参加されたmifuさんがトップバッター。いきなり変則チューニングの曲で始まり、「この会、レベル高いんだ」と感じながら演奏を聴いていた。
そのころはまだ平然としていた。バーボンソーダを注文して、しばらくすると尿意をもよおし、近くの公衆トイレに足を運んだ。席に戻り、バーボンソーダのお代わり。すると、またしばらくしてトイレに。結局3度トイレに通い(註:いずれも小)、バーボンソーダを3杯お代わりした。5人目が終わって、「わたしの番ですね?」と訊ねると、「いちど休憩しましょう」とのこと。このあたりから心臓はバッコンバッコンの動機を開始。重たいギターケースから、とっても軽いモーリスS92を取り出して、マイクの前の高い椅子に坐った。

考えてみれば、こういうPA完備の会場で演奏するのは30数年ぶりのことだ。
「えらい、アガってます。どうしよ!? だめだ、こりゃ・・・」とこぼすと、
「ちょっとリハーサルで『
生活の柄』でもやってみられたら、落ち着くんじゃないですか?」とチョトロクさん。
お言葉に甘え、「生活の柄」を歌ってみた。声が震えている。で、2~3人前にエレガットでモンクの「ラウンド・ミッドナイト」を演奏した方がいらっしゃったので、「別バージョンでやってみます」と言って試し弾きしたら、全然指が動かない・・・まるで、自分の腕や指ではないように感じられた。
演奏スタート。今回の選曲は「星に願いを」「自転車に乗って」「貝殻節」の3曲。以下、とりあえず、解説しておきます。
1.星に願いを When You Wish upon a Star [インストルメンタル]

ご存知、ディズニーのアニメ『ピノキオ』の挿入歌で、多くのジャズメンがカバーしてきたウルトラ・スタンダードナンバー。ギターという特殊な楽器の分野に限ると、カバーの範囲はクラシックやアコースティックにまでひろがってゆく。今回のアレンジは関口祐二さんのスコアに基づいている。このスコア集は
『お洒落なパーティーで弾く ソロギターアルバム』(ちょっと気恥ずかしいねぇ?)。そのタイトル通り、すべてスローで上品なジャズ・バラードに編曲されている。「星に願いを」はスコア集の中でも一、二を争う
難曲でしてね・・・メロディーにあわせて単音ずつハイポジションのコード(もしくはテンション)を変えていくジャズ特有のアレンジ。なかなかしんどい。なんとか弾けるようにはなったのだが、テンポがスローすぎて間延びした感じがするので、思い切ってアップテンポのフィンガー・ピッキング用にリメイクした。ただし、聴いている側は、そんなに難しい曲だとは感じない。たぶん、左手の動きが速くみえないからだろう。それは学生からも確認したし、姿見に映る自分の演奏をみてもそう思った。難曲であることを感じさせない点はとても良いことであり、それがこの曲を抜擢した最大の理由であります。前夜、反復練習したいちばんの聴かせどころで、1回ストップ。あとはなんとか弾き終えました。 しかし、もう気分はメロメロ・・・席に戻ってバーボンソーダをごっくんと飲んではみたが、なんの効果もなく、心臓の鼓動は激しくなるばかり・・・
2.自転車にのって[ヴォーカル付]

高田渡の代表曲。数ある高田ソングのなかで、この曲を選んだのは、ともかく明るくプレーしたかったから。アレンジはわたし。まぁ、アレンジというほどでもないんだけど、明るく楽しくブルーグラス風に聴かせようと考えていた。7カポのGキー(歌はDキー)で演奏したんですが、ブルーグラスのGスケールは、G→A→B♭→B→C→D→E→Gと展開する。このB♭(3弦3フレット)→B(2弦開放)の部分を最大限活用しようとしたんです。また、曲全体が「線路は続くよ どこまでも」とよく似ているので、間奏部分の途中から「線路は続くよ・・」にメロディをそっくり変えて、間奏最後の4小節で「自転車に乗って」に戻した。2番の歌詞を間違えて1度ストップ。高田渡の曲で失敗するなんて、自分でも信じられませんね。このあたりで、もう膝はがくがく状態・・・右手にも左手にも膝の振動が伝わってきて、いや、どうなることかと思った・・・ここでまたバーボンソーダをごっくんと飲みに帰るも、やはり効果はなし。
3.貝殻節[ヴォーカル付]
貝殻節は昔から大好きな因幡民謡で、漁民の苦しさがひしひしと伝わってくる日本のブルースだと勝手に思っていた。これをギター伴奏で歌おうと思い始めたのが2週間ほど前のこと。最初はレギュラー・チューニングのまま、EmキーでAadd9とG6を反復させ、最後はCmaj7を使ってEmに戻るように考えていたのだが、不自然さが消えない。そのころたまたま
変則チューニングを調べていて、結局、多くのギタリストが使っているDADGADがペンタトニックの民謡によく合うという予感を得た。Dキーの場合、日本民謡のペンタスケールはD→F→G→A→C→Dと展開する。つまり、DADGADの開放弦に含まれない音はFとCのみ。メロディを奏でるにはFとCの位置だけ気をつけていれば良いのである。伴奏では「コード」を捨てて開放弦を尊重し、ベースラインのみDとFとGを反復させることにした。これで十分美しい不協和音が奏でられ、日本の音にしっぽり濡れてゆくのです・・・
イントロには、別の二つの民謡を借用した。まず「竹田の子守唄」、つぎに「こきりこ」の囃子の部分。ご存知のように、「竹田の子守唄」は赤い鳥がヒットさせ、「こきりこ」はフォークルがカバーしている(知らなかったんですが、岸部眞明も「竹田の子守唄」をカバーしてるようですね)。「こきりこ」の囃子の部分からボトルネックを使い、そのまま「貝殻節」の最後の2小節まで
ボトルネックにしてイントロは終わり。あとは歌うだけ。このあたりで、右膝のガクガクはクライマックスに達していた・・・エンディングのラストに左手の親指を裏拳のように旋回させるハーモニックスを使うことにしていて、何度も何度も練習していたのに失敗してしまった・・・

3曲終わり、失意のまま席に戻ろうとすると、「もう1曲!」の声がかかった。たぶんリップサービスなんだろうけど、「えっ嘘だろっ」と思いながら、何にしようか考えていたところ、「ラグタイム演って!」の一声。「それじゃ、ま、エビスビールのCMソングで・・・」と答えてはみたのだけれど、すでにチューニングはDADGADに変わっていて、レギュラーに戻すだけでずいぶん時間がかかり、いざ「
第3の男」の譜面に向かっても音譜を追うことすらできず、3度挑戦したが、途中でギブアップして席を立った。「第3の男」もすでに演奏できるようになっているんだけれど、駄目だった。完全に平常心を失っている状態で演る曲ではありませんでした・・・
というわけで、自分でない自分を久しぶりに実感した宵夜でありました。ちなみに、アガっていたのはわたしだけではなくて、ソロでインストに挑戦した人はみな同じでした。ミスなしで演奏できたソリストはいなかったんじゃないかな・・・その点、2~3人でグループを組んでいる方がたは楽しそうで羨ましかったですね。
今回はじめて六弦倶楽部の「練習会」に参加させていただきました。主催者のチョトロクさんのお骨折りには、ほんとうに頭が下がります。楽しい会でした。ありがとうございました。うまく演奏できなかったことなんてたいした問題ではないですよね。楽しい時間をみんなで過ごしたことが一番ですもんね。
いつか必ず古民家を会場にして、「練習会」を開催しましょう。今年の秋ごろには是非イロリを囲んで、中年アコギの楽しい会をもちたいですね。いまから構想を練り始めようと思っています。
- 2007/06/25(月) 21:35:02|
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