午後2時から7時間ばかり不安と焦躁のなかにいた。
生まれてはじめて、ネットのオークションに参加したのだが、あやうく落札しそうになってしまったのである。わたしは今、麻薬中毒患者のように中古CDを買い続けており、最近はそれがクラッシク・ギタリストの作品に集中してきている(開封してないCDがバックにたんと入ったまま)。今、耳元で鳴っている山下和仁の『展覧会の絵/火の鳥』(1981)なんて、ほんま、なんぼすごいか。いや、噂には聞いていたが、これは凄まじいというか、恐ろしいというか、とんでもない独奏だ。ムソルグスキーの『展覧会の絵』をギター1本で表現するということがどういうことか。ともかく聴いてみてください。
大袈裟なことを言うと思われるかもしれないけれども、山下和仁はこれまでわたしが聞いた全ジャンルのギタリストのなかで最強ではないだろうか。「世界最高」という言い方は軽率かもしれない。少なくともイチローに匹敵する音楽家ですね、この人は。ヒデや俊輔のレベルではない。
谷口ジローという漫画家もイチロー級かもしれないが、山下和仁はイチロー級かそれ以上です、間違いなく。
山下和仁が凄いからといって、すべてのクラッシクギターのCDに満足しているわけではないが、ともかく
ヘッジスとかコータローとかにいかれている若者たちには、世の中には別格がいるということを是非知ってほしいものです(わたしはこの歳になるまで知らなかったけれど)。パーカッシブなギター奏法とか変則チューニングとか、たいした問題じゃないんですよ。音楽の本質からずれてるんだって。中川イサトがいくらスキルフルなギター弾いたって、高田渡の「
生活の柄」には敵わないんだから。
というわけで、さんざん悩んでモーリスS92を買った直後から、わたしの関心はクラシックギターに移ってしまったのだが、もともと貧乏なのに最近また財布をなくしたりして、高いギターが買えるわけもない。だから、なんとか安くて良質のクラシックギターを手に入れたいという願望が押さえきれなくなり、ネットのオークションに手を出してしまった。某有名メーカーの「M50」というクラシックギター。ネットでM50の評価を調べてみたところ、決して悪くない。さらに、すでに18人の入札者がいて、価格は最低価格の500円から12,500円まで釣り上がっていた。競争が激しい、ということは、ギターの質が悪くないということである。残り時間はあと6時間。とりあえず入札に参加してみよう、ということで、会員登録を済ませ、13,000円で入札のメールを送信したところ、「拒否」の返信。直前に14,000円で別人が入札しており、以後の最低入札額は「14,500円」と表示され、YESかNOを問うてきた。
即座にYESのボタンを押す。ネットの入札画面に戻ると、20番目の入札者にわたしのアカウントが表示され、横に「最高額入札者」の赤い太文字が併記してあった。
その段階では、早晩、だれかがもっと高い額でせり落とすだろうと気楽にかまえていたのだが、いつまでたっても、わたしは「最高額入札者」のままでトップに君臨しているではないか。なにやら心臓のまわりがざわざわしてきた。ほんと、このギターでいいのか。たかが14,500円、されど14,500円。心配になって、オークションの資料をみなおすと、なんと「弦高0.4㎝」の表記を発見。これはいけない。わたしはギターを4本もっているが、いずれも12フレット上の弦高は3㎜未満である。いくらクラシックでも、6弦で3.5㎜までに押さえておかないと。弦高4㎜は耐え難い。これは困った。修理が必要だ。
残り2時間になって、まだわたしは「最高額入札者」のポジションにいた。これはまずい。急ぎ出品者へ質問メールを発信した。
・・・・初めての入札で慣れていなくて、よく注意書き等を読んでいませんでした。
「弦高0.4㎝」とあるのにあとで気づきました。(略)まことに申し訳ありませんが、
キャンセルさせていただけないでしょうか。オークションの初心者でして、
申し訳ありません。
しかし、返事はなかった。もうあきらめかけていた8時すぎ、残り時間が1時間を切った段階でオークション画面を開いたところ、15,000円での入札があり、わたしのポジションは上から2番目に落ちていた。
ほっと胸をなでおろした。やはり通信販売で楽器を購入するのは恐ろしい。モーリスS92を買ったのも、実際にネックを握って指を動かしたときの、あの抜群の弾きやすさを体感したからであり、ああいう感覚なしに楽器を買い入れるのは危険きわまりない。自分にフィットした楽器であることを肌で感じることさえできれば、多少の額を払ってでもギターを買う価値はある。今後はやめよう。ネット・オークションなんかで楽器を仕入れちゃいけません。トラブルのもとだ。
さて、この話にはオマケがついている。
深夜10時すぎ、M5出品者からのメールを受信した。読めば、最高額落札者が「家族の事情により」キャンセルしてきて困っている、だから2番目のわたしに売却できないか、送料はもつ、という内容であった。
もちろんお断りした。最高額落札者が物品購入をキャンセルすると、オークションの主催者からマイナス・ポイントが与えられ、悪質な場合にはブラック・リストにも掲載されるらしい。ひょっとしたら、わたしもすでに減点されているかもしれない。
- 2007/08/01(水) 02:19:03|
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コメント:2
先生,最高額落札者のキャンセルは,私も2年位前に経験しました。MAILも来ました。当然,断りましたが,よくある手口です。気をつけてください。熱くなって価格を追いかけないこと,本当に欲しかったら,時間の終了前に「ポン」と入力する。時間延長で価格が吊り上るようだと潔くあきらめる,縁がなかったものと自分に言い聞かす,これが大事だと思います。
- 2007/08/01(水) 08:55:59 |
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- ちょとろく #-
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アドバイス、ありがとうございます。話は変わって、第3回練習会ですが、もちろん「参加」の方向で日程を調整中です。ただ、ベトナムの調査日程が流動化しており、少し困っていまして・・・なんとしてでも参加したいのですが、正式な回答はいましばらくお待ち下さい。
- 2007/08/01(水) 13:38:14 |
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- asax #90N4AH2A
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