「ブルーゼット」について書いていたら、無性にトゥーツ・シールマンスが聴きたくなってしまい、なにか良い音源はないか、とネットを彷徨っていたんですが、『ライブ・イン・ニューオーリンズ』というDVDに行きあたりました。これが2日前に届いたんですね、いや、もう最高、ごきげんなライブです。
1曲めは「
酒とバラの日々」(曲:H.マンシーニ)。ブラバンのアルト君、抜群の音源を探しましたよ。これで、「酒とバラの日々」という曲のすばらしさを十分わかってもらえると思います。ともかく、ハーモニカが歌ってるからね。ソリストというのは、こういうふうに演奏するんだ。こんなソロがとれる人はめったにいない、ほんとに。
2曲はモンクのメドレー。「
ラウンド・ミッドナイト」をイントロ風に一人で吹き、カルテットでの「リトル・ブッカー・トゥッティ」に流れていく。いいですよ!
このほか8曲全部を紹介する余裕はありませんが、とくにわたしのお気に入りは4曲めの「グリーン・ドルフィン・ストリート」(曲:B.ケイパー)。この曲、好きな人おおいんじゃないかな。あの乗りの良い出だしのところ、カッコいいもんね。
以前、奈良の若草ホテルでジャズライブを演るラウンジがあって、宴会のあとの2次会はお決まりのように流れてったもんですが(その後、潰れてしまった)、そこでよく「グリーン・ドルフィン・ストリート」をリクエストしていたんです。すると、ベースを弾くバンマスが逆に訊いてくるのね。
「どこかで、演ってんの?」
わたしは答えた。
「ウクレレ、演ってま~す・・・」

7曲めまでは、すべてピアノ・トリオをバックにしたクロマチック・ハーモニカの演奏。残念なのは、若いリズム隊の力量がやや落ちること。シールマンスのソロが終わって、ピアニストがソロをとると、曲が変わってしまったように聞こえる。同じプロと雖も、実力差はどうしようもない。たぶん、若いプレーヤーたちはバークリー音楽院あたりで高等教育を受けたエリートなんでしょうが、とても叩き上げの職人芸に敵わないのです。
で、最後の8曲めが、お待ちかねの「ブルーゼット」(曲:シールマンス)。いや、凄い。音だけは何度も聴いてきましたが、映像をみるのは初めて。口笛とギターで同じメローディを奏でるだけなんだけど、ユーモラスで爽やかで、これだったら「
展覧会の絵」にだって勝てるよ。これは、ほんとうにだれも真似のできない演奏です。かりにTAB譜を手にいれてコピー演奏をしても、絶対に受けない。これはシールマンスでなければ、だれが演っても駄目でしょう。
渡辺香津美は、よくこんな曲を別のアレンジでカバーしようという気になるもんだ。演るだけ無駄だって、分からないのだろうか?

さて、「ブルーゼット」を検索している途中に、ローラン・ディアンスのアルバム『ナイト・アンド・デイ』がヒットした。ディアンスはいちおうクラッシック・ギタリストにジャンル分けされていますが、『ナイト・アンド・デイ』は全曲ジャズのスタンダード。まぁ、フランスのギタリストらしいといえば、そうなのかな。アンドリュー・ヨークがアメリカ、ローラン・ディアンスがフランスのクラシック・ギタリスト、というのは、それぞれたしかにお国柄なのでしょうね。で、『ナイト・アンド・デイ』の2曲めに「ブルーゼット」が入っています。非常に繊細な編曲で、とても耳に爽やかに聞こえます。
セルシェルのビートルズを思わせるというか、あれが、もう少しジャズっぽくなった感じですね。素晴らしい演奏だと思いますが、なにぶん原曲が凄いんでね・・・悪いけど、やはり原曲には及ばない。「ブルーゼット」を演奏して、シールマンスに勝てる音楽家は世界中どこを探してもいないでしょう。ありえない演奏です、あれは。
ローラン・ディアンスというギタリストは、非常に素晴らしい技巧をもっていて、ジャズの和声もよく理解しているんですが、渡辺香津美とは逆に「研究者」っぽいところが強く、それが弱点と言えば弱点かもしれませんね。「チュニジアの夜」では、左手だけでメロディを奏でながら、右手でギターの表面板や横板を叩くパーカッシブな奏法を取り入れているんですが、これはすべってますね。ビバップ草創期の名曲のグルーブ感がまったく消えていて、少しがっくり。パーカッシブな奏法っていうのは、フラメンコがそうなんだけれども、短くさらりと入れるのが効果的。ドキッとするでしょ、突然、短い打楽器奏法が入ってくると。ディアンスの場合、左手で弾くメロディはトーンが弱く、右手のドラミング?が強くて長い。だからアレンジ全体が不安定で、原曲の魅力を引き出せてませんね。
ついでに、スタン・ゲッツについても触れておきましょうかね。トゥーツ・シールマンスの『ライブ・イン・ニューオーリンズ』と同時に、スタン・ゲッツの『アニバーサリー!』というライブCDも届いたんです。ゲッツのテナーも、ほんと凄いですね。歌いまっくってますよ、テナーが。天才ですね。スタン・ゲッツは、多くのジャズ・ミュージシャンと同様、ひどいヘロイン中毒で、ずいぶんいろんなトラブルをおこしたようですが、楽器をもつと人が変わって、ちゃんとした演奏をするんだと村上春樹が書いていました。ほんとうに凄いソロですよ。こちらのほうはバックがケニー・バロン3で、ゲッツ以外の演奏の質も高く、CD全篇にわたって即興演奏を楽しめます。ジャズには何度も聞き返したくなるような名盤が少ないとよく言われますが、『アニバーサリー!』は名盤なんじゃないかな。これもブラバンのアルト君に聞かせよう。ブラバンの指導教員に叱られるかもしれませんがね。
「ジャズなんか聞かせないでよ、変なクセがついちゃうから」
って・・・。
- 2007/08/20(月) 00:06:25|
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