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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

佐治のガウディ

 過日、笹尾神社の祈祷札外しと棟札探しをお願いした西尾棟梁は、奥さんと二人で工務店を営んでいる。調査が終わるころ、棟梁のほうからわたしに寄って来られ、
 「ちょっとみてむらいたいもんがあるですけどなぁ・・・」
とおっしゃる。このご夫婦が、いま一番熱中している仕事は、藤原家住宅の新築工事である。笹尾神社から旧道におりると、奥さんが待機されていて、森坪にある藤原家までご案内いただいた。
 棟梁の言を借りると、藤原さんはふつうのお百姓さんなのだが、山持ちでいい木材をいっぱいもっている。その木材を伐り出して家をつくるのが道楽で、仕事を任された。木材は伐り出してから十分乾燥させる。だから、何年もまつ。そういう材で、家を建てる。木材の接合には、金物をいっさい用いない。ぜんぶ込み栓。
 1階をみると、ほとんどの柱がケヤキで、まれにヒノキを含む。流通材なら1本200万円。そういう材が裏山でとれるので、材料費はタダ。胴差の成も50㎝ぐらいある。2階にあがると、さらにびっくり。ぶっとい小屋梁が縦横に飛んでいるのだが、これがまたケヤキなのである。ふつうはマツを使うが、ここではケヤキ。ケヤキの野物の梁である。
 奥さんはいう。自分の夫ながら、こういう仕事をみていると惚れぼれする。素晴らしい言葉だ。
 「この住宅は、いつ完成するんですか?」
と聞いたら、あっけらかんとして棟梁は答えた。
 「わからん。どんな材がとれるか、その乾燥がどいだけかかるか、わからんから、完成もいつかわからん。」
 こういう棟梁の言葉を聞いて、「佐治のガウディだ」と思った。


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 このご夫婦は、どこまでもいい人だった。わたしたちは、ご夫妻のために働いたわけではない。逆に、棟梁は無償で棟札探しの仕事をされた。わたしたちは謝金を準備すべきところだったが、総代から「氏子だけぇ、要りません」と言われ、その言葉にあまえてしまった。ご夫妻は、わたしと学生7名を「カミング さじ」のレストランに招待された。わたしたち8人は、日替わり定食とコーヒーと梨シャーベットをごちそうになった。わたしは、もちろん代金を支払おうとしたのだが、お二人ともにこにこ笑って、
 「とんでもない」
と言われるだけ。
 車にのって運転しはじめると、「上月さんに似てますね」とノビタが呟いた。鳥取城の石垣修復を一人で支えてきた石工の上月さんである。
 そのとおりだと思った。職人さんには、頭が下がる。
  1. 2005/08/23(火) 20:19:16|
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