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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

『世界の住まいにみる 工匠たちの技と知恵』刊行!

 太田邦夫先生の最新作『世界の住まいにみる 工匠たちの技と知恵』が出版元の学芸出版社から送られてきた。送られてきたのは1ヶ月近く前のことであったが、奈良を離れている時間が長く、今日までここに紹介することができなかった。まずは、太田先生と学芸出版社に感謝したい。

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 本書の構成と図書情報は以下のとおり。

世界の住まいにみる 工匠たちの技と知恵

   まえがき
  1.床が横に動く住まい
  2.浮上する高床の住まい
  3.地震帯になぜ井楼組が残っているのか
  4.鼠返しの効用
  5.木を縦・横に使うハイブリッドな構法
  6.棟持柱はなぜ消えたか
  7.ピロティは杭なのか、柱なのか
  8.渡りあごは強かった
  9.双倉と「1+1=3」の空間
  10.反り棟の住まい
  11.屋根の勾配をどうやって決めるか
  12.屋根の形と街並みのデザイン
   あとがき

図書情報: 
  発行年月   2007年10月30日
  著 者     太田 邦夫
  発行所     学芸出版社
  サイズ     A5版・175ページ
  ISBN    978-4-7615-2415-9

 いずれの章も刺激的なタイトルばかりで、多くの建築分野と関係している。建築と係わり生活している学生・社会人にとっては必読の書であり、また、建築を専門としない一般読者にもぜひご一読いただきたい著書である。文体は平易で、とても読みやすい。



 さて、この著書はわたしといったい何の関係があるのか。コラムなどの執筆を担当したわけではない。わたしはもともと「民族建築」という分野を専門としており、本書の内容と重複しあう研究を続けてきた。とりわけ「3.地震帯になぜ井楼組が残っているのか」と関わるちょっとした仮説を呈示しており、太田先生も拙論を引用文献にあげている(その内容は「地域生活文化論」授業の第8回で講義している)。
 ここにいう「井楼組」とは「校倉」に近い概念である。厳密にいうと「校倉」とは「倉」に限定されるが、「井楼組」とは「倉」ではなく、横木を重ねて壁を作る「構法」をさす。わたしはユーラシア各地の遊牧民が夏季はテントで移動性の高い生活を営む一方で、厳寒の冬季になると井楼組の「冬の家」に定住する住み替えのあり方に注目した。その「冬の家」の構造は、青銅器時代以前の遊牧民たちの墓の構造とよく似ている。先史・古代の遊牧民たちがどのような建物に住んでいたのかは不詳だが、井楼組による墓の構造がかれらの「冬の住まい」の構造を類推させうる媒体だと考えたのである。
 太田先生の既往研究などを参考にすると、井楼組の「木郭墓」は紀元前18世紀ころのカスピ海沿岸域に起源を求めうる。そのあたりを震源地として、西はヨーロッパ各地、東はスキタイの木郭墓に受け継がれてひろく東方アジア方面に拡散していった。その余波は一方で雲南の青銅器文化(中国の戦国時代~漢代に相当)、他方では朝鮮半島の積石墓や高句麗の壁画古墳にまで及ぶ。朝鮮半島を経由して日本に伝来した「校倉」は広範な井楼組分布の末端に位置づけうるであろう。
 以上がわたしの仮説なのだが、太田先生はこれを「地震帯」と結びつけて解釈されようとしている。ユーラシアの強地震帯の分布と井楼組の分布が重なりあうというわけだ。たしかに、横方向に木材を積み上げる構法は地震に強い。だから、地震帯で井楼組が出現し普及したという見方を否定できないであろう。ただ、逆説的にみると、それならば世界最強の地震帯である日本という国において、なぜそれほど井楼組が発展しなかったのか、という疑問が残る。日本の木造建築構法は軸組構造を基盤としたものであり、「校倉」に代表される井楼組は「倉」に限定された例外的な構法なのだから。ただし、法隆寺金堂などの建築構造、とりわけ通肘木を多用する組物の構造は井楼組に近似するものであり、また中国の『営造法式』にみられるモジュールの基本概念、すなわち折り重なる横材の断面寸法を基準とする寸法体系などは井楼組の構造的発展がもたらした産物とみなせなくもない。
 いずれにしても、地震と井楼組を結びつけた地理学的解釈は本書が初めてであり、それはまたわたしの持論の傍証たりうる解釈でもあって、少なからず勇気づけられた。
 太田先生の次作を今から心待ちにしている。

  1. 2007/11/26(月) 01:25:31|
  2. 建築|
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