年末に中川イサトの『アローン』と岸部眞明の『オープン・チューニング&フィンガー・ピッキング』をみくらべた後、わたしは続けて『Fobbiden Play』というDVDをみたんです。
作夏の訪越時に入手していた大量のDVDのうちの1枚でして、とくに時間が余っていたわけでもないんですが、購入後3ヶ月たってなんとか視聴することができました。このDVDには驚愕しましたね。
福田進一と渡辺香津美のギター・デュオ。福田進一は村治佳織の先生で、パリの国際ギターコンクールで優勝してます。いま最も活躍しているクラシック・ギタリストの一人で、年に2~3枚のペースでアルバムを出してる。福田、アンドリュー・ヨーク、イヨラン・セルシェル、ローラン・ディアンスは同世代でしてね、じつはわたしとおなじ1956年か1957年の生まれのはず。対して、渡辺香津美はわたしたちよりも3つか4つ上だったんじゃないかな。
演奏曲目と使用ギターを紹介しておきます。使用ギターは前者が渡辺、後者が福田です。
1.ブロンズ(エラーズ ブーシェ)
2.[V.ロボス]エチュード第1番(ジェイコブソン ブーシェ)
3.ノルウェーの森(ジェイコブソン トーレス)
4.アヴェ・マリア(ハウザーⅡ ラコート)
5.無伴奏バイオリンのためのパルテーィタ第3番(エラーズ ブーシェ)
6.フール・オン・ザ・ヒル(エラーズ ブーシェ)
7.ミッション・サン・ザビエル(ハウザー ブーシェ)
8.禁じられた遊び(ジェイコブソン ハウザーⅡ)
9.ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ(ハウザーⅡ ブーシェ)
10.火祭りの踊り(ジェイコブソン ブーシェ)
アルバムのタイトルになっている「Fobbiden Play」は7番目に演奏される「禁じられた遊び」の直訳ですが、正確にいうと「禁じられた遊び」は映画(1952)の題名でして、イエペスが弾いた曲の原題は「愛のロマンス」。なにが言いたいのかというとですね、「禁じられた遊び」という題名の曲が含まれているから、DVDのタイトルに使われているわけではなく、クラシック・ギタリストとジャズ・ギタリストがやってはいけないプレイをやっているからアルバムのタイトルが「禁じられた遊び」になっているわけで、その象徴的な曲が「愛のロマンス(禁じられた遊び)」だということです。言うまでもなく、クラッシクでは作曲者の書いた譜面に最大限敬意を払い、それをどのように解釈し美しく演奏するのかが課題となるのですが、その演奏にジャズ・ギターのインプロビゼーションをかませようという企みを「禁断の遊び」と呼んでいるんですね。それをまた1台が数百万~数千万円する(らしい)名器をもちかえながら演奏するという試みであります。
いや、脱帽の一言。イサトさんや岸部さんには申し訳ないけれど、これはね、ちょっと別次元の世界というほかない。特別な訓練をうけてきたエリートだけが入れる紫禁城です。アコースティック・ギター芸術が存在するとすればこういうものだ、ということを教えてくれるDVDですよ。
えっ、おっかしいだろ、おまえ、あれだけ
香津美の悪口書いといて、なんでまたそないに誉めるのよ、矛盾してるでねえか!ってお叱りが聞こえてくるのは重々承知しております。
でもね、ここでの渡辺香津美は素晴らしい。『おやつ』とか『ギター・ルネッサンス』とか倉吉のコンサートで幻滅した香津美ではない別の渡辺香津美がこのDVDのなかにおります。すばらしいギタリストですね、文句なし! なぜだろうって考えたんですよ、結構ながい時間をかけて。やっぱり、これは福田進一の存在がおおきな重しになっているとしか言いようがない。おそらく現在の日本で最高峰のクラシック・ギタリストである福田の存在が、渡辺に抑制を効かせている。ほっておけばタコ糸が切れてしまい、どこに飛んでいくかわからない香津美にちゃんとした居場所を与えている。居るべきポジションに香津美は居るんですね。それをコントロールしているのが、福田の存在感でしょう。
だとすれば、福田がただただ偉大という結論になってしまうけれど、じつは逆の言い方もできるんですよ。
わたしはクラシック音楽家の最大の欠点?は「研究者みたいなところ」だと思っています。学者みたいなのね。どこそこの音大でなにがしの先生を師にして学んだことが必ず経歴に書かれる。なんで、そんなこと書かなきゃいけねぇの、と思うんだけど、どんな雑誌読んでも、そういう履歴書がついてんです。で、顔写真みても、研究者みたいな顔してる。真面目そうで、頑固そうで、人生を楽しんでいない、そういう顔してんですね、クラシックの音楽家は。それに引き換え、ジャズマンはいい顔してるでしょ。サッチモ、カウント・ベイシー、エリントン、ロリンズ、ナベサダ、みんな晴れ晴れとして「音楽、楽しんでますよ~」って満足な笑みを湛えている。クラシックの音楽はね、どんなに深くて難しいのかしらないけれど、わたしたち俗人には楽しめない側面が多々ある。NHKの教育放送で交響楽団の演奏が映像で映ったとして、まぁ2分ももちませんわね・・・みなさん、チャンネルを変えませんか!?
福田進一のギターも同じでして、わたしはかれのアルバムをたくさんもってますが、愛聴しているCDは1枚もない。愛聴しているのはチェット・アトキンスであり、ニール・ヤングであり、ビートルズであり、ダイアナ・クラールであり、スティーリー・ダンであり、高田渡なんだから。長距離運転していて、6連奏チェンジャーに福田進一のアルバムをしのばせることはもちろんありますけれど、最初から最後まで聴くこためったにありませんね。それはね、音楽が難しいだけじゃなくて、聴いてて楽しめないからですよ。わたしの音楽的な素養が低レベルだからでしょうが、「退屈」になっちゃうんですよ。
『Fobbiden Play』では、クラシック・ギタリストの真面目さが渡辺香津美の影響で砕けてる。チョーキングやったり、アドリブやったりしてね、遊んでいるんです。福田本人にしてみれば、この「遊び」はヤだったのかもしれない。でも、聴いてる側はおもしろい。というか、楽しめましたね、ほんとに。
ちなみに録音ですが、画面にはマイクすらあらわれません。よほど音響のよいスタジオで録音したんでしょうね。画面に映らないところにマイクはセットされていたんでしょうが、限りなく原音に近い状態で再生されています。さて、これがライブになるとどうなるのか。(続)
- 2008/01/03(木) 22:59:14|
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