以前お話ししたとおり、わたしは2002年度に「
魯班営造学社」という設計事務所の登録をしている。以来、まったく何の活動もしていない。外部からの業務はすべて「鳥取環境大学浅川研究室」の名で受託している。「魯班営造学社」は有名無実の組織であって、存続させることに意味があるのかどうかも分からなくなっている。その更新期限が迫り、どうしたものかと迷った。更新手続きのためには1万円が必要だということも知っていた。
やっかいなのは講習と業務報告である。すべては姉葉事件に因がある。あの捏造事件により建築士と設計事務所に対する締め付けが一気に厳しくなった。建築士法は改正され、新しい諸規則に対する講習会が何度か催された。わたしは講習会の出席率がきわめて悪い。常識的には、講演する側にまわる立場の職責であり、そういう会の聴衆として参加する自分がなにやら恥ずかしいのである。しかも、定期的な業務報告が義務づけられるようになっている。煩わしい。
更新のため県の担当部局を訪れた際、講習会に出ていないことで叱責された。ただ、建築士会だったか事務所協会に電話して確認していたのだ。講習会は出席すべきだが、出席していないからと言って「更新」を認めないわけではない。法律でそこまで規制されていない、と。
担当職員に対して、その旨を伝えた。「現状で認められないなら、今回の更新申請は却下してもかまいません」とも答えた。担当職員は黙ったまま手続きを進めてくれた。
そして数日経ち、呼び出しの電話が鳴った。「魯班営造学社」の更新が認められたのである。とういうわけで、あと5年間、わたしは「魯班営造学社」という何もしない設計事務所の代表であり続ける。
ちなみに、「魯班」とは『孟子』に出てくる天才的な工匠で、後代には「大工の神様」として崇められ、ついには名工の代名詞にもなった。『日本書記』にでてくる「露盤博士」(百済から来日して飛鳥寺を造営した工匠)の「露盤」と「魯班」が同音であることには注意されたい。一方、「営造」は「建築」とほぼ同義である。戦前に結成された中国最初の建築史学会が「中国営造学社」であり、その紀要が『中国営造学社彙刊』である。
ここで読み方に触れないわけにはいかない。「魯班」の北京語音は「ルパン」。これを採用し、「魯班営造学社」を「ルパンえいぞうがくしゃ」と読むことにした。ために、わたしのいくつかのアドレスに「lupin」というフランス語が混じっている。この事実を知る人は少ないだろう。
- 2008/02/29(金) 00:05:00|
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