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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

ブギス寺院 -ウブド通信(Ⅲ)

ブギス寺院02本院02眺望


 街に喧噪がもどってきた。8日はサカ暦の正月2日である。
 昨日のように、奥のプールに向かおうとすると、ターバンを巻いたルームキーパーの一人が「朝食はあちらですよ」と言って、道のほうを指さした。
 空は晴れていた。朝食後、さっそくタクシーの予約をした。昨日動けなかった分を取り戻さなければならない。タクシーをまる1日キープして、キンタマーニ火山、ブギス寺院、ライステラスを一気にみてまわることにした。
 発車してまもなく、運転手が「どのようにまわりたいのか」訊いてきた。昨日のような天候になっては困るから晴れているうちに火山をみておきたいと主張したのだが、どうやら火山には昼食用のレストランが準備されているようで、運転手はブギスに先に行こうと提案した。

   It's up to you !

と答えたのだが、なにやら嫌な予感がした。

ブギス寺院01仮設祭場01

 今回のバリ視察はもちろん観光ではない。ある「見立て」に挑もうとしてここにやってきた。キンタマーニ火山を大山、ブギス寺院を大山寺、山麓の諸寺を伯耆の社寺や史跡、ライステラスを棚田や段々畑に見立てているのである。それならバリなど訪れなくとも、伯耆の国を彷徨すれば済むことではないか、とだれしも思うだろう。しかし、それではアイデアがふくらまない。バリに居て、名勝旧跡を訪れながら大山と伯耆に想いを馳せるから、凡人のイメージに閃きが加えられるのだ。つい先日のあるヒアリングでも、わたしは大法螺を吹いた。

   鳥取県の中山間地域の里山や農村集落を何にも代え難い「文化的景観」だと
   言って、保護の対象にしようと提案したってつまらない。ハロン湾というアジアの
   世界遺産を相手にしているのだから、そういうグローバルな視野をもって三徳山
   なり大山・隠岐をとらえ、その自然と文化遺産と文化的景観のすべてでもって
   勝負しない限り、世界はおろか、日本の国内予選すら勝ち抜けないだろう。

 読者諸兄には、わたしが何を言いたいのかよく分からないかもしれない。これから2年をかけて、その姿を少しずつお知らせしていくので、楽しみにお待ちいただきたい。

ブギス寺院01仮設祭場02



ブギス寺院02本院01
 
 ブギスはバリ・ヒンドゥー教の総本山である。ご存じのように、インドネシアはイスラムの国家であるにも拘わらず、バリ人は唯一例外的にヒンドゥー教を強く崇拝し、その宗教的思想が島土に沁みわたっている。それが建築景観にこれほどまでもかというほど顕現している。そのヒンドゥの総本山がブギス寺院である。実際には30の寺院の複合体であり、その総称がブギスであるという。忌みのあけた正月2日、参拝者は後をたたない。
 まず本院正面の前院の前庭に設けられた仮設の祭場に瞠目した。それは平城宮大極殿の前庭に設けられた「大嘗宮」を彷彿とさせる施設であった。黒木に青竹で建設された大嘗宮は、その素材によって仮設性と清浄性を強く誇示する。ブギスの祭場も同じであった。近辺で採れる植物質の素材だけで祭場を拵えている。これは、神が降臨したか、降臨し天に戻った直後のどちらかの状態を示すものであろう。高御坐はほんとうに高い御座所として築かれ、それを覆う4色の衣笠が風にたなびいている。

ブギス寺院02本院03祭祀03男
 
 前院と本院で洗礼をうけた。供物をもって院庭に坐り、線香を立て、5色の花弁の入った小さな籠を前におく。どの色が何事に対応しているのか、すでにその関係すら記憶の彼方に消えてしまった。ともかく、ある色の花弁をもって香を捲き、合掌して祈る。ある色は「祖先神」、ある色は「父母」、ある色は「家族」、ある色は「商売」について祈る媒体である。祈りが終わると、神官か巫女らしき人物が側によってきて、聖水を頭にふりかけ、掌に落とす。その水を飲み、頭に塗りつける。最後に生米を頂戴する。その固い米の一部を食べ、一部を額に貼り付けて儀式は終わる。そして、お布施を賽銭箱に入れる。
 わたしは1ドル紙幣を賽銭箱にいれた。すると、巫女らしい女性たちは、

   「1ドル、1ドルだよ」

とひそやかに囁いている。高いのだか、安いのだか、よく分からない。たぶん安いのだろうが、ドルのお布施が滅多にないので驚いていたのかもしれない。

ブギス寺院02本院03祭祀04花

 ブギスを去るころ、大粒の雨が地面を濡らし始めた。駐車場に下りて、その雨はほとんど止んだ。運転手は空を指さし、「ほら、あちらのほうは青空がひろがってきているよ」とわたしを安堵させた。(続)

ブギス寺院02本院03祭祀02供物
ブギス寺院02本院03祭祀01米


  1. 2008/03/09(日) 20:20:01|
  2. 建築|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:4
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コメント

ブギス寺院は想像を豊かにしてくれる。
カラフルな衣笠と持ち上がった床
古代の山陰も華やかだったんでしょう。
山陰との関連をたのしみにしてます。

  1. 2008/03/11(火) 21:45:10 |
  2. URL |
  3. こまいぬ #-
  4. [ 編集]

こまいぬ様

コメント、ありがとうございます。
そうなんです、「衣笠」という言葉を思い出して、書きなおさなきゃいけないと思っていました。
バリに住みたいですね・・・
  1. 2008/03/11(火) 23:36:50 |
  2. URL |
  3. asax #90N4AH2A
  4. [ 編集]

バリの建物はどうして土台を持たないんでしょうか?
観光でバリに行ったとき、気になったこと。
海岸沿いのサヌールにTandjung Sari Hotel
という古くからのリゾートホテルがあり、
屋根のインテリアが、とても美しい。
チャップリンも宿泊したんじゃなかったかな。
  1. 2008/03/13(木) 00:48:41 |
  2. URL |
  3. こまいぬ #-
  4. [ 編集]

日本建築には

なぜ土台があるのでしょうか?
  1. 2008/03/13(木) 22:05:55 |
  2. URL |
  3. asax #90N4AH2A
  4. [ 編集]

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