デンパサールから関空までの飛行時間は6時間半。日本時間の7時(バリ時間の6時)起床。朝食が配られた。JAL国際線の機内食は、かつてとても悲惨な時期があった。今はずいぶん持ち直している。食後、『アフターダーク』を読み終えた。いつものことだが、「落ち」はない。村上春樹の小説に答えはない。読破したのだから、そこそこおもしろく感じたのだろう。しかし、いつものことながら、なにやら不可解な読後感が残る。その前に読んだ『東京奇譚集』はもう少し分かりやすい短編集で、「落ち」のある作品も含まれていたんだが、『アフターダーク』は結構きつかった。
関空に着陸したのは午前8時半。出国手続きは順調に進んだ。が、荷物はなかなか出てこない。そのあいだ難波OCATのバスセンターに電話して、鳥取行きのチケットを予約した。梅田発11時の便である。ようやく小型の銀色のスーツケースがでてきた。と思ったら、わたしのスーツケースではなかった。しばらく待って、こんどこそわたしのスーツケースを発見。すでにJAL716便の客はほとんど消えている。
それからJALの荷物カウンターに行って、アラックとブレムの入ったダンボール箱をうけとった。ガムテープで厳重に固めてあり、それをカッターでほぐしたら、中のビニールバックはぼろぼろになってしまった。
酒とスーツケースの荷札を交換し、税関も楽にパスした。急ぎリムジンバスの停車場へ。早朝でもあり、梅田行きの便はがらがらだった。梅田まで1時間あまりを要した。梅田に着いてまずは紀伊国屋に寄り、司馬遼太郎の忍者本を3冊買った。わたしのような単細胞には、やはり村上春樹よりも司馬遼太郎があっている。ただ、村上春樹の小説にはジャズの話が突然でてくるので、それを楽しみに待っている自分がいる。いずれまた読みたくなるだろう。
鳥取行きのバス乗り場は紀伊国屋の対面にある。カウンターで、予約した切符を受け取った。喫茶店で一休みし、携帯の蓋をあけてみると、たくさんの着信履歴が残っている。登録していない電話番号ばかりで、その一つは4回繰り返してコールされていたが、無視することにした。おそらく明日のやっかいな会議のことに違いない。構うのも煩わしい。
11時5分前、鳥取行きのバスに乗り込んだ。銀色のスーツケースは車体中央下側の荷物収納ボックスに納めたから身軽になった。そこに携帯が鳴った。おそるおそる電話にでた。
「あのぉ、スーツケース、間違えてらっしゃいませんか?」
仰天した。運転手に頼んでボックスをあけてもらって確かめたら、たしかに間違っている。大きさも色もそっくりのスーツケースだったが、わたしのそれではないことに気が付いた。折り返し電話した。わたしがもっているスーツケースは、吹田在住のYさんのものだという。わたしのスーツケースは関空の係員が保持している。その係員は電話口でこう言った。
「間違えたのはそちらさんですからね、宅配料などはご負担ください。」
「えっ、荷物のタッグを確認したのはお宅の会社でしょ?」
「いえ、間違えてもっていったのはそちらさんですから・・・」
そんな馬鹿な、とは思ったが、気が動転していた。まずはバスのチケットをキャンセルした。次のバスにすればキャンセル料は要らなかったが、2時間半も時間があくのでJRに切り替えることにした。100円の手数料をとられた。それから、同じカウンターの端にある宅配所でスーツケースを吹田に送った。そうこうしていると、また携帯が鳴った。
「さきほどは失礼しました。やはり弊社に非があります。
弊社で宅配等の費用は全額負担させていただきます。」
「そうですか・・・ありがたい。」
わたしは大学の住所を電話口でゆっくり伝えた。
JRの構内にある小さなバーでギネスを飲み、列車を待った。環状線からスーパーはくとに乗り換える途中にある小さなバー。ギネスはロンドンで飲むそれの半分ぐらいしか苦くないが、普通のビールより神経を刺激してくれるような気がする。
ギネスを飲みながら、(罰があたったのか)と考えた。デンパサール空港で、ブレムとアラックをあっさり検閲官に渡していたならば、こういうトラブルに巻き込まれることもなかったのではないか。
これまでの人生で、何度かこういう因果とも言えない因果を経験している。(エピローグ完)
- 2008/03/18(火) 00:05:27|
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「東京奇譚集」は面白かったですね。表紙の猿の絵もよろしく~ENOKI~
- 2008/03/18(火) 10:49:37 |
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