8月29日 オークニー諸島→シェトランド諸島: ヤールショフ・セトルメント、スキャロウェイ城、フォート・シャーロッテ、クリックヒミン・ブロッホ、スタニーデイル神殿跡 みんな笑っている。だれもかれもが笑っているのだ。笑わずにはいられないほど、風が激しいのである。27㎏のスーツケースが手もとを離れて滑り出し、レンタカーのドアが閉まらなくなり、自分の体も思った方向に進まない。写真を撮ろうとしても、腕の横揺で手ぶれしてしまう。
朝早くから、イーストバンクハウスのマスターが大騒ぎしていた。
「風が強くて、シェトランドからの船が欠航さ。おかげで、注文していた食料品が届かないよ。でも、飛行機は飛ぶんだ、安心して!」
たしかにプロペラ機は空を飛んだ。わずか20分あまりの飛行で、シェトランドのサンバラ空港に着陸したのだが、離着陸時の揺れはそうとうなもので、あれがもう少し続いたら酔っていただろう。着陸して、ただちにレンタカーをチャーターした。今日の車は、ホンダのクリオである。最初にめざしたヤールショフ・セトルメントは、空港の隣の波打ち際にあって、すぐに着いたのだが、そこで北緯60度の風の洗礼をまともに受けた。オークニーの雨と同じで、シェトランドの風も、最初は「これで風土を体感できる」ぐらいに思うのだが、それがいつまでたっても変わらないから、気がつけば、心身ともにぐったり来ている。今日はまる1日、この強風と戦った。

↑↓ヤールショフ。下は鉄骨補強。

ヤールショフの次に目指したのは、モウサ島のブロッホ。サンウィックにフェリー乗場があると聞いていたのだが、全然みつからない。たまたま、町の小学校から綺麗な女性が出てきたので、「ブロッホに行きたいんです」と声をかけてみた。彼女は即座に「付いてきて!」と答え、フェリー乗場まで誘導してくれたのだが、ターミナルは閉まっていた。
「風が強いから欠航だわ、明日にして!」
疲れがピークに達していた夕暮れ、最後の視察地として選んだスタニーデイル神殿跡の看板前に辿り着いた。その看板には、1.5マイルと書いてある。草原を2.4キロ歩け、という指令である。風に刃向かいながら、その草原をてくてく歩いていくのだけれども、なんだか足下がじくじくしている。野地坊主だ。北海道や興安嶺とおなじ湿原が、草地の下に隠れているのである。はたして、靴は沼地に埋まり、靴下と足だけが宙に浮いた。靴も靴下もべとべとである。
いまB&B(民宿)の暖房パネルの上に革靴をのせて乾かしているところだ。

↑↓スタニーデイル円形神殿跡

(上)風を写したいのだが、難しい。(下)野地坊主。

