
2006年9月のハロン湾水上集落調査で、寺廟の庭に必ず植えられる樹木の存在を知った。その樹木はベトナム語で「
CAY DAI」という名前であるところまでは分かったが、それがプルメリアであることを知るのに1年を費やした。2007年8月末、
ハノイ城正門を訪れ、その台上に植えられた大樹のサインボードに「CAY DAI」の名を発見したのである。葉をみると、たしかにハロン湾のクアヴァン寺でみたそれとそっくりで、サインボードの真ん中に「Plumeria rubra Linn」という学名が横書きしてあった。
プルメリアの原産地は中米だが、今では世界中の亜熱帯・熱帯地区にひろく植栽されており、中国ではこれを「鶏蛋花」と呼ぶ。「鶏卵の花」という意である。真っ白な花弁の中心部にある花心が淡黄色を呈し、花の色合いが卵の黄身と白身のようにみえるところに中国名の由来がある。
バリ島でプルメリアの花をみた。
ニェッピと呼ばれる旧正月元旦の日、バンガロー前に植えられているプルメリアの樹に気づいた。大雨のあとの夕方、芝生の上にたくさんのプルメリアの花が散り落ちた。ひょっとしたら、どこか日本の花屋さんでプルメリアの花をみたことがあったかもしれない。かりにそうだとしても、そのとき、その花をプルメリアだと微塵も意識していない。だから、ウブドのバンガロー前庭でみた鶏卵のような花が、生まれてはじめて意識的に視覚にとらえた本物のプルメリアの花だと言える。

翌朝、ホテルの庭を歩くと、カエルや神の石像の頭にプルメリアの花が飾られていた。どうやら毎朝、ルームキーパーの男たちがプルメリアの花を庭中の像の頭においてまわるようだ。ニェッピの日だけは、その労働さえも許されなかったのだろう。プルメリアは至るところに植えられている。宿舎の前にも、庭のあちこちにも、そして祠堂の脇にも。
ベトナムの謎が1年半の後にインドネシアで完全に氷解した。
熱帯の花には艶がある。
- 2008/03/27(木) 00:04:42|
- 環境|
-
トラックバック:0|
-
コメント:0