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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

薬研堀慕情(Ⅰ)

鮎の茶屋

 慶長十五年六月のある夕刻、下呂舌右衛門は自宅の座敷で電子映像をみながら酒を酌み交わしていた。

    「伸太、今回の大和蹴鞠団はあまり強くないのぉ」
    「はぁ、なにぶん、あの爺古とか申す伯剌西爾人の監督の采配が訳わかりませぬゆえ」
    「利蔵、その爺古とか申す南蛮人を始末できぬか?」
    「はっ、できぬことはございませぬが、とりまきを甲賀者が固めております故、利蔵ひとりではたやすい仕事とは申せませぬ・・・」

 伸太と利蔵は舌右衛門の側近ではない。伊賀から3年契約で雇いいれた間忍(しのび)のものであった。いつもは床下か天井裏に潜んで舌右衛門と密談におよぶのだが、この夕刻は大和蹴鞠団と朝鮮蹴鞠団の試合があり、舌右衛門は蹴鞠好きの伸太に電子映像を馳走していたのである。利蔵もその恩恵にあずかった。

 ふと電信音が鳴った。

   「・・・・あっ、いまね、サッカーの試合みてるから・・・・」

と答えて、舌右衛門は手機を切った。

    「どなた様でござりますか?」

と伸太が訊く。

    「・・・鮎よ、鮎じゃ。」
    「あっ、鮎姫がお呼びでございますか? さっそく薬研堀へ参りましょう。」
    「阿呆、おまえ、蹴鞠が視たいのではないのか?」
    「いえ、まぁ、その、あの茶屋には美しいおなご衆が多ござりますゆえ」
    「鮎の電信はな、本気ではない。営業じゃからの・・・」
    「そうでしょうか、なんと申されておりましたか?」
    「このまえの占いの続きしようねって。」
    「あれは楽しうございましたな。拙者、鮎さまも殿のこと、まんざらではないと思いまするが・・・」
    「おまえはわしを出汁にして、あの茶屋へ日参しようという魂胆がみえみえじゃ。鮎はわしに惚れてなどおらぬわ。」
    「では、行かぬのでございますか?」と利蔵が訊いてきた。
    「おまえも行きたいのか? 」
    「はい、無論でございます。まだ行ったことがございませんゆえ、是非・・・」 

 試合は引き分けに終わった。

   「靄靄とした気持ちを晴らすには、茶屋へ行くのが一番にござりまするぞ」

と伸太がせかす。

    (3人分か、また金がかかるわい)


 茶屋の門をくぐると、女将がいち早く挨拶にあらわれた。女将は「薬研堀の峰不二子」と仇名される別嬪で、十代の終わりから頭角をあらわし、色町に2軒の茶屋を構えていた。鮎は女将の姉で、茶屋の手伝いをしているが、茶屋仕事には慣れていない。
 鮎は長く江戸住まいをしていた。聞けば、江戸に許嫁もいたというが、なんの理由か国元に戻り、妹の茶屋を手伝うようになった。美貌の姉妹に茶屋は賑わっていた。姉と妹はよく似ていたが、美しさの質が違った。妹の女将は、色町のために生まれてきたような艶を漂わせているのに対して、姉には武家の娘のような凛とした清楚さがあった。

 舌右衛門は、鮎に会うたびに同じことを言った。
   「鮎殿は、かような商売は性に合わぬのではないかな。そのように髪を染めても、わしは似合うとは思わぬ。初めてお目にかかったときの黒髪が忘れられんな・・・」
   「分かりましたえ、今度召されるときには、髪を黒う塗り替えましょう。」
   「わしのためにか?」 
   「ふふ・・・、そうそう、今日も占いをしましょうね。」
と言って、二冊の占い本を棚からもってきた。いつもの遊びである。

 鮎は茶屋の人気者ゆえ、あちこちの席からお呼びがかかる。それでも舌右衛門がくると、同席する時間は短くはない。短くはないが、ほかの席にも呼ばれるし、女将はおなごが一つの席にとどまることをよしとしない。席をまわり、お流れを頂戴して、売り上げをあげるように強く指示している。

 しばらくして、鮎は舌右衛門の席をたった。代わりに、二十歳前のおなごが席についた。舌右衛門は退屈になってしまったが、歳のちかい伸太と利蔵は逆に元気になり、話を間断なく続けている。夜は更けて日付が代わり、店じまいまで残り四半刻となったころ、舌右衛門は茶屋をもう出ようと思っていた。すると、美雪というその若いおなごが伸太にねだった。

   「もう一杯いただいてよろしうございますか?」

 甘えるような猫撫声である。驚いたことに、

   「好きにせよ」

と伸太は即座に答えた。侍大将のような太く低い声であった。

  (勘定を払うのはわしじゃぞ・・・)



*『薬研堀慕情』 好評連載中!

    「薬研堀慕情(Ⅱ)」






  1. 2008/02/03(日) 20:21:09|
  2. 小説|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:2
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コメント

舌右衛門様
お茶屋での粗相、ご無礼つかまつりました。
また、お誘いいただきたく存じます。
  1. 2008/03/31(月) 16:23:00 |
  2. URL |
  3. 伸太 #-
  4. [ 編集]

この物語はフィクションです。
  1. 2008/03/31(月) 18:02:21 |
  2. URL |
  3. asax #90N4AH2A
  4. [ 編集]

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