10分ばかり休憩があり、ダグ・スミスにバトンタッチ。身長192㎝の長身、ブロンド・ヘアーの長髪。インテリジェンスな眼鏡。爽やかを絵に描いたようなジェントルマンで、この方も、わたしと同い年でした。前にも紹介したように、2006年の
全米フィンガー・ピッキング・チャンピオンです。サム・ピックを使うギタリスト。ユー・チューブでみたイメージそのままのギタリストでしたね。左手と右手を両方使うタッピングも2曲やりましたが、
マサさんほど派手ではありません。非常にオーソドックスなギタリストで、たぶんクラシック・ギターの影響を受けており、バッハやシューベルトをアレンジして聞かせてくれました。
印象に残ったのはメドレーかな。1回めは「グリーン・スリーヴス~テイク・ファイブ」、2回めは「アベ・マリア~好きにならずにいられない」。前者は「グリーン・スリーブス」をまずオーソドックスな4拍子で弾き、変則的な5拍子の「テイク・ファイブ」に移行、そのままアップテンポの5拍子で「グリーン・スリーブス」に戻るメドレー。後者は、シューベルトの「アベ・マリア」を教会音楽らしいスローバラードで弾き、そのアルペジオスタイルのままプレスリーの「好きにならずにいられない」に移行するメドレー。二つの曲がとてもよく似ているのに聴衆は驚きました。ただ、和声にもうひと工夫欲しいところですね・・・

ダグ・スミスはボーカルも披露した。カントリー・フォークの楽しい唄で、フィンガーピッキングの伴奏付きだったから、ジェイムズ・テイラーの『
ワン・マン・バンド』を思い起こしたんですが、当たり前のことだけれども、ダグ・スミスはジェイムズ・テイラーではなかった。カーネギー・ホールを満席にするジェイムスとモダンタイムスというバーで40人の客を相手に歌うダグの違いは何なのか。その場にいれば、両者の違いは、あまりにも歴然としている。文字で表現しよう思えばできないことはもちろんないが、やめておこう。
ダグ・スミスのギターはマサさんほど大きく拡声されてはいなかった。アコースティック・ギター本来の音に比較的近い。しかし、それは魂を癒してくれるような音では決してなかった。ヨークの「
レッティン・ゴー」との距離はあまりにも遠い。
なぜ、アコースティック・ギタリストは生ギターの音を大切にしないのだろうか、とまたしても思い、CDを売りにきていたプー横丁のマスターに訊ねてみたところ、
「アレックス・デ・グラッシが200~300人の会場で完全にアンプラグドの演奏をしています」
と教えてくださった。アレックス・デ・グラッシのCDは1枚ももっていない。たぶん ウインダム・ヒルのオムニバスで1~2曲聞いた程度だろう。上のライブCDを買おうかどうか・・・たぶん買わないだろうな。

9時10分ころ、ひとりの女性客が静かに扉を閉めて店を出ていった。わたしにも時間の余裕がない。9時35分、まだダグは演奏していたが、静かに扉を開いて、静かに扉を閉め、わたしは会場をあとにした。三条京阪の駐車場を出発したのは9時50分。
それから5条通りを一路西行。1号線から9号線に道路名は変わり、それから鳥取まで9号線の途なりに車を走らせた。こんな経験をしたことがない。鳥取と関西の往復にはいつも中国縦貫道を使ってきた。学生たちが9号線を走ると聞いても、「そんなしんどいことはしない」と一笑にふしていたのだが、薬研堀の鮎殿までいうのだ。「9号線を走れば、京都まで3時間半ですよ」と。鮎殿は母君と二人、京まで買い物にでかけようと9号線を突っ走り、福知山を過ぎたあたりでねずみ取りに捕まったことを悔やんでいた。しかし、その話を聞いて、わたしも9号線を走ってみようという気になったのである。名神から中国道をまわって帰っても時間はかかるし、高速代もばかにならない。
深夜の9号線はきつかった。しかし、3時間半という時間は嘘ではなかった。田園町のエッソ・スタンダード石油に辿り着いたとき、時計の針は翌日の午前1時32分を指していた。ココスの最終オーダー時間に2分遅れたのが残念無念・・・
深夜の9号線、わたしはほぼ3時間近く
山下和仁を聞き続けていた。バッハの『無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータ』。このCDが終わると、マサさんの『ボーン・トゥ・グルーヴ』に自動シフトするのだが、わたしは1曲目を聞き終えることなく、山下和仁にチャンネルを戻す。ライブの前に気持ちよく聞けたCDが、ライブの後では聞けなくなった。そういうライブもあるものだ。
山下和仁のバッハは、深夜の高速蛇行運転に鈍化していく神経を覚醒させ続けてくれた。 (完)
- 2008/04/26(土) 00:00:47|
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