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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

越南慕情(Ⅰ)

国旗を掲げた家船群02

 みなさん、ハロン湾に戻ってきましたよ。ここまでの道のりは長かった。2日の深夜1時半の便がバンコクに着いたのは現地時間の4時半(日本時間の6時半)。それから4時間も飛行機を待ったんです。このあたりで、すでに体はへろへろ。バンコクで乗り換えた飛行機がハノイに着いたのは十時半で、出国手続きをして、そのまま大型タクシーに乗り込み、ハロン湾に着いたのは午後2時半すぎでした。今回は完全にハノイをショートカットしているのです。
 しばらくホテルで休みたかったのですが、さっそく遺産管理局のハオさんと新通訳のハンさんがホテルのラウンジにやってきて打ち合わせ。この日は建国記念日で、みなさんお休み。ハオさんはすでにご機嫌な顔色をしていました。ワインをたくさん飲んだみたいです。

新筏住居パネル 一夜あけて、3日の八時半に出発。小型船「天宮10号」に乗り込んで、クア・ヴァン村に向かいました。どういうわけかこの小型船が結構速く、11時前にはクア・ヴァン村に到着。前日が建国記念日だけあって、どの筏住居でも掲揚された国旗が風にたなびいています。
 例年そうなのですが、とりあえず、コミュニティ・センターに足を運びました。一つの収穫は新しいセメント構造の筏住居についてのパネルが追加されていたことです。
 わたしは、さっそく通訳のハン女史に、説明文の英訳を依頼しました。以下に、その英訳を和訳しておきます。

未来の漁民のための筏住居  
 これはソーラーシステムで電気を生み出すようにした筏住居のタイプの一つです。
 屋根から雨水を得て、トイレは家の中にあります。新鮮な水を含む救命ブイとトイレで使われた汚水の両方が家を浮かせるシステムの床下におかれるでしょう。
 台風などの嵐がくる場合には、簡単に安全な地域に移動できます。
 家の建材は人工的な材料で、劣化後に元の状態に戻すことが可能です。

 このパネルに描かれた筏住居は、昨年、実験住宅として建設されたインスペクティブ・オフィスとよく似てますね。某院生くんは、この実験住宅とコミュニティセンターに展示されていた建築家設計の近来住宅案(パース)を組み合わせて、クアヴァン村の近未来像をシミュレートしました。そのCGアニメーションが、今回持参したいちばんのお土産です。

アニメをみるチョー一家01

 そして、昨年まで村長だったチョーさん宅を表敬訪問しました。村長の任期は3年で、今年から村長は別の人に変わっていたのです。チョーさん宅では、大歓迎!
 昨年撮影した記念写真が表彰状の額の中に飾られていました。その後、院生くんが制作した村の過去・現在・未来のCGアニメーションをおみせしたところ、これが大変な人気で、またたくまに人だかりができました。みんな眼が点になってましたよ。

チョー一家の記念写真 チョーさんの感想を求めたところ、「未来案はとてもよい。悪天候に強そうだ」と評価してくれました。わたしたちは、この近未来案を実現しようとしてCGを制作したのではありません。むしろ、いまベトナム政府が推進しようとしている未来住宅によって、ハロン湾の文化的景観に乱れが生じることを示そうとしたのです。一言でいえば、新しい住宅は自然地形に対してスケールアウトなんですね。しかし、住民にしてみれば、「文化的景観」という概念などどうでもよいことで、願うはただただ住宅の性能向上です。実際、チョーさんはCGをみた瞬間、「この住宅を建ててくれるのか?」と問うてきました。同行した某準教授は、CGが逆効果になるのではないか、と心配することしきり。このCGによって、村の未来の姿が焼き付いてしまうと大変だというわけです。われわれの課題は、水上集落の住居性能の向上をめざしながら文化的景観を保全する方途をさぐることですが、いまのところ景観変化のシミュレートにとどまっています。今後、院生くんがどのように修士論文をまとめるのか、に課題の解決は委ねられていると言えるでしょう。


新入セメン船01水売り

 しばらくして、チョーさんは不機嫌そうに話題を変えました。この1年間で10世帯も増えてしまったというのです。そのなかには、いつものことながら、他の海域からやってきた漂海民も含まれていますが、驚いたことに、陸地からの移住者までいるのです。そのニュカマーたちは大きセメント船を住居として、水・果物・薬品などの販売をしたり(↑)、カラオケ店を開いたり(↓)しています。チョーさんは「ちょっとかなわん」という顔を崩しません。
 わたしと准教授は、午後から小型のボートに乗り、全戸の連続写真をとりました。2006年、2007年も同じことをしました。この3年間の変化を読み取りたいのです。この調査を進めるさい、新参世帯をマークしていきました。たしかにセメント船は嫌がられるであろう場所に大きな顔をして(占有面積がひろい)船を浮かべています。クア・ヴァン村は、たんなる漁村から豊かな養魚と観光の村に変わり、とうとう陸地からの移住者によって新しい産業がおこされはじめたのです。これを「都市性の萌芽」といわずして、なんというか、なんちゃって・・・

新入セメント船02カラオケ

 午後、昨年調査につきあってくれたロックさんの家にも立ち寄りました。ロックさんはいきなり白い軍服を着ました。胸には5つの勲章をつけています。訊けば、共産党政府からベトナム戦争の英雄として表彰され、陸地に土地を与えられたのだそうです。かれは、まもなく息子に養魚権を譲り、陸地に移住していくみたいです。これには驚きました。わたしも准教授も、70歳をすぎたロックさんが馴染みのない陸地で生活を始めることが困難ではないか、という不安を抱きました。陸地に移住しても、早晩、ロックさんはクア・ヴァンに戻ってくるだろう。そう思っています。

船に乗ったロックさん ロックさんに、明日一緒に昼ご飯を食べようと誘ったのですが、この日の夕刻、かれは陸地に向いました。移住のための手続きを進めるようです。奇遇にも、夕刻、船のデッキでぼんやりしていると、ロックさんの乗る船がわたしたちの船を追い越していきました。互いに手を振り合いました。

 昨日のブログでも述べたように、今回は補足調査です。調査はまもなく終わるのです。今年は科研の2年度めですが、助成金が少なく、准教授と二人だけのハロン湾再訪となりました。一昨年の予備調査ではチャックとエアポート、昨年は院生くん、ハルさん、エアポートたちがいて、わいわいがやがや楽しかったですが、今回は学生がいなくてちょっぴり寂しい思いをしています。学生たちを海外に連れていけるだけの競争的資金を獲得しなきゃいけない。准教授ともどもがんばらなきゃいけません。

ロックさん01記念写真>




  1. 2008/09/05(金) 00:50:04|
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