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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

越南慕情(Ⅱ)

雨の船

 東アジアの全域で雨が降っているのではないか。ホテルの部屋でBSの天気予報をみると、中国も日本も東南アジアもみんな雨だ。恵みの雨です、アーメン・・・
 そう言えば、昨年の調査の最終日も雨だった。海は荒れていて、よせばいいのに外洋近くまで出てしまい、学生たちは船酔いでふらふらになってしまった。今回も同じような行程を考えていた。今日(9月4日)は補足調査の2日目だが、これで補足調査は終わり。補足調査が終わるということは、すべての調査が終わるということである。3年にわたって続けてきたハロン湾水上集落調査の最終日になってしまった。

WBC校正 午前、船はバーハン村とホアクン村を経由してクアバン村に向かった。雨で外に出れないので、WBCの先発メンバーを考えたり、原稿を校正したり。DS社の縄文シリーズの校正が出発前に送られてきていて、いちど読んだら悲惨なレベルだったので、もう今回の執筆は辞退すべきだとまで思い詰めたのだが、とりあえず校正原稿をベトナムまでもっていって決めようと考えなおした。縄文シリーズは校正だからまだマシけれど、弥生シリーズに至ってはまだ一文字も書いていない。2008年は駄目ですね。だってさ、ユーロとオリンピックが両方あったんだから、原稿書いている場合ではないわね・・・と言いつつ、船のなかで神経を集中させ、校正を始めると、結構おもしろくなってきた。あぁぁぁ、このまま雨が降ればいい。外で写真を撮り始めるときりがなくなる。おれに校正をさせとくれ、なんちゃって・・・

カラオケ02マダム

カラオケ01外観up クアバン村に着くころ、雨はあがった。今日はチョーさんを船に招いて昼食会を開くことになっていたのだが、時刻はまだ11時過ぎだったので、新装オープンしたカラオケ店を冷やかしてみることにした。もちろん、これも重要な調査である。
 朝からビールというわけにもいかないので、ソフトドリンクを注文した。店の旦那がセメント船の床下から取り出してきたファンタオレンジのケースにミリンダが混ざっていた。なんとなく懐かしく思い注文したのだが、その味はまさに人工甘味料&着色料100%で、飲んだら体に悪いだろうなぁ、と不安にかられながらも結局飲み干してしまった。

カラオケ03みりんだ インタビューには、もっぱらマダムが答えてくれた。クアバンに来て開店したのは2~3ヶ月前とのこと。陸地でやる仕事がないから、この村に来てカラオケ店を開くことにしたのだという。いまのところ、店は繁盛している。開店時間は夕方から深夜11時まで。旅客ではなく、村の若者がよく利用する。一月の収入はおよそ300ドル。同行していた通訳のハン女史(公務員)の月給が150ドル前後だというから、稼ぎは決して悪くない。漁民たちが「うるさい」と苦情を言ってこないか、と訊けば「こない」とマダムは答えた。しかし、あとでチョーさんに確認したところ、一度苦情があって、停泊地を変えたらしい。とりあえず、村の若者はこの店を歓迎しているようだ。しかし、大人たちはだいたい7~8時に眠りにつくので煩わしい施設ができたと感じている。インタビューの間中、マダムは不安気な表情をしていた。わたしたちの調査したデータが公表されると、この村から立ち退かなければなるのではないか、と心配していたのかもしれない。

養魚槽作り01

ポニーテイル 昼になって、チョーさんの家の前に移動し、船を停めた。チョーさんは養魚槽の通路ですでにわたしたちを待っていた。昨日居なかった娘さんも今日はベランダで髪をといており、しばらくして、その髪をポニーテールに結び、学校にでかけていった。昨年、わたしたちの調査隊を出迎えてくれた人だけに、わたしたちもよく覚えているし、彼女もわたしたちをよく覚えてくれている。互いになんども手を振り合った。食事会にはロックさんにも参加してほしかったのだが、かれは町に行ったままで、まだ村に帰ってきていない。通訳を交えて4名の食事は、ヒアリングの続きになってしまった。もう少しリラックスして、雑談めいた会話ができれば、と思ったりしたが、まぁ成り行きに任せるしかない。
 船の窓から、チョーさん一族の筏住居がみえる。お孫さんの数は20人以上。みんな楽しそうに暮らしている。どうしてあんなに楽しそうにみえるのだろうか。どう贔屓めにみても、自分はかれらほど幸福ではないように思えてならなかった。
 チョーさんは別れ際に「来年また来る機会があれば・・・」と挨拶した。わたしは言葉を濁すことなく、「来年戻ってくることはないと思います。体をいたわってください」と述べた。チョーさんは少し落胆したかもしれない。あぁ、この学者たちも同じか・・・さんざん調査して、結局、この村のために何もしてくれなかった・・・そう思われても仕方ない自分が情けなかった。 


客船02

 チョーさんに別れを告げ、天宮10号はクアバン村の内海を一周した。昨日は手こぎ船で村をまわり全戸の撮影をしたが、今日は遊覧船のデッキから目線を変えて全戸の写真を撮った。そうして、わたしたちはクアバン村を離れていった。帰りはヴォンヴィエン村を経由した。こちらも昨年訪問した漁村である。小さなコミュニティ・センターがあり、客船がたくさん停泊していた。クアバン村に継ぐ観光地になっているようだ。
 あとはデッキに坐りこみ、ビアハノイを飲みながら、雑談を続けた。曇り空で夕陽がないのが残念だったが、これがなにより至福の時間である。その至福の時間を味あうこともしばらくないだろう。いつわたしたちはハロンに戻ってくるのだろうか。いまは見当もつかない。とにもかくにも、世界自然遺産ハロン湾の水上集落調査は終わった。

 じつは先ほどまで、ホテルのロビーでギターを弾いていた。もちろん日本からギターをもってきたわけではない。ロビーで演奏する楽団が民族楽器にまじえてギターも使うのだ。夕方、民族音楽の演奏を聞いていると、ボーイが寄ってきて話しかける。

    「ギターが弾きたいんなら、どうぞ。今朝、あなたがギターを演奏するのを
    聞いていたんですが、とても上手いですね。どうぞ、いま弾いてください」

ギター演奏 たしかにわたしは朝の待ち時間を利用して、勝手にギターを拝借し、「ムーンタン」を弾いていた。そこに数名の人だかりができた。ボーイはそれをみていたのだろう。とは言っても、民族楽器を演奏する人たちを押しのけてギターを弾くわけにはいかない。わたしたちは近くの飲食店にでかけて軽い夕食をとり、ホテルに戻ってきた。民族楽器の演奏はまだ続いていたので、いったん部屋に戻り、デジカメ・データの整理をした。そして、頃合いをみはかり、わたしは一人ロビーに降りていった。演奏者は消えている。広いロビーの反対側では、韓国人の旅客がかまびすしく、ギターを演奏しても、その賑やかな会話にかき消されてしまう。実際、だれもギターに気をとめたりしていない。まずは1弦と6弦の調弦をゆるめ「ムーンタン」を弾く。そして、「レッティン・ゴー」と「酒とバラの日々」へ。「ムーンタン」はいつでもどこでも大丈夫だ。「レッティン・ゴー」も今日はうまく弾けた。気持ちが良いので3度も弾いた。残念だったのは、「サンバースト」と「プレリュード」の運指をほとんど忘れてしまったこと。せっかくあれだけ練習したんだから、もういちど暗譜しなおさないとね。




  1. 2008/09/06(土) 00:57:25|
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