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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。
九州の文化的景観を往く(Ⅲ)
クリスマス・イブは福岡県うきは市の筑後吉井重要伝統的建造物群保存地区から大分県日田市の重要文化的景観「小鹿田焼の里」に飛ぼう、と思っていたのだが、うきは市の観光案内所で、隈上川(くまのがみがわ)上流域に重要文化財のくど造民家「平川家住宅」と日本棚田百選「つづら(葛籠)の棚田」があることを知り、本日のメイン・コースとなった。
日本の棚田百選「つづらの棚田」
筑後川の支流にあたる隈上川の中流に建設された合所ダムを超えると、とたんに山里の風情になる。姫治(ひめはる)小学校のあたりから、棚田と茅葺き民家の複合する景観が非常にひろい範囲にみられる。これだけでも十分「重要文化的景観」に選定されてもおかしくない。
渓流を遡り、南の山あいに入っていくと、まずは奇岩「なが岩」があり、そのさらに奥の葛籠(つづら)地区に、面積7haの谷地形に300枚ばかりの棚田がひろがっている。これを耕作する農家は5世帯と聞いた。その集落は棚田の最上部にある。二日前にみた唐津の「蕨田の棚田」に比べると面積はやや狭いが、迫力ではひけをとらない。「蕨田の棚田」は重要文化的景観に選定されているだけのことはあって、すでに石垣の修復などの介入行為、すなわち「整備」の成果を感じ取れるが、「つづらの棚田」はそれを感じ取りにくい野性味が魅力的だ。とはいうものの、「棚田をまもる会」が結成され、棚田に関する看板や休憩用のベンチが設置されており、オーナー制度もすでに始まっている。
重要文化財「くど造り」平川家住宅と民家集落の景観
棚田からいったん隈上川の流域に戻って、さらに上流に行くと、田篭(たごもり)地区の南岸に重要文化財の平川家住宅がある。「くど造り」は佐賀だけでなく、筑後川流域に分布しているのだ。昨日述べたように、「くど造り」は平面がコ字形を呈する民家だが、平川家の場合、これに納屋が附属し、全体では三棟造となっており、軒が接する2ヶ所に大きな樋が架けられている。建立年代は不詳ながら18世紀後期の様式と推定され、「ざしき」部分の増築は仏壇の墨書から文政三年(1820年)と知られる。
平川家のやや上手にイビザ(IBIZA)というスモークレストランがあって、昼食をとった。自家製のスモークハムを売りにした、暖炉付きレストランで、クリスマスイブには格好のデートコース。いい感じのカップルが3組、ゆったりと食事をしていた。
さきほど述べたように、姫治から田篭にかけての隈上川流域には棚田がひろがり、集落にはたくさんの茅葺き民家が残っている。平川家周辺はその代表的な景観形成地である。これに「つづらの棚田」を加えたひろいエリアを景観法の景観計画区域とし、そのなかの重点景観地区を重要文化的景観や重要伝統的建造物群保存地区とすれば、この地域の文化的価値は一気に高まるだろう。とりわけ、下に述べる筑後吉井の町家地区(重伝建)との対照性がきわだつ点に注目があつまるとわたしは思う。
筑後吉井重要伝統的建造物群保存地区
「奈良でいえば国道24号線のように無味乾燥な都市郊外型の道路だな」と思いながら久留米から車を走らせていた。その国道24号線のような国道210号線に、突然、入母屋造平入白壁の町家群が姿をあらわした。近くのお店に立ち寄り、お話をうかがうと、すでに重伝建の選定地区内にいるらしい。まずはうすは市の観光協会をたずねた。その周辺にも白壁の町家が軒を連ねている。最初に「灯具屋」さんに入った。見事なガラス細工や照明具が展示されている。「よくこれだけコレクションを集められましたね」とマスターに訊ねると、かれは「いえ、自分で作っているんです」と答え、さらに「ヨーロッパで修行しましてね」と控えめに説明した。欲しいなと思う作品はいくつかあったが、結局、買わなかった。ガラス細工が美しすぎて、自分が住んでいる家や下宿との釣り合いがとれないと思ってしまうのである。なにより「実用性」が乏しい。有田の香蘭社で磁器を買ったのは、ただ美しいだけではなく、器に実用性があるからだ。民芸の根本は、やはり実用的な美なのだと思ったりしてね・・・
さてさて、筑後吉井の町家は質が高い。今回みた重伝建地区ではぴかイチであろう。都市化というか、なんというか、新しい建物が増えていて、町家の連続性という点ではいまひとつのところもあるが、それはこれからの修景事業で改善されていくだろう。
2008/12/26(金) 00:01:32
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