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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

実績報告(Ⅳ)-2008年度鳥取県環境学術研究費助成研究

 今年度実績報告の第1弾は鳥取県環境学術研究費助成研究(課題番号B0807)です。今年度からの新規採択でして、以下に研究題目とサマリーを記します。

     「文化的景観」の解釈と応用による地域保全手法の検討(Ⅰ)
   -伝統的建造物群および史跡・名勝・天然記念物との相補性をめぐって-

 初年度は「世界遺産と文化財保護法における<文化的景観>の概念の検討」「国内外の<文化的景観>事例の視察及び比較検討」「鳥取県内における<文化的景観>ストックの掘り起こし」「智頭町板井原の集落景観、若桜宿の町並みに対する<文化的景観>としての再評価」「鳥取城跡、若桜鬼ヶ城などの史跡を対象とした「文化的景観」としての再評価」「史跡における遺構と復元建物の景観シュミレーションCGの制作」などに取り組んだ。フィールドは若桜と智頭が中心となったので、ここに概要を報告する。

1.若桜町の景観計画
 若桜町の景観計画には、二つの重要文化的景観をモデルとして位置づけた。一つは北海道平取町の「アイヌの伝統と近代開拓による沙流川流域の文化的景観」、もう一つは滋賀県の「近江八幡の水郷」である。前者は過疎地の振興を町ぐるみの景観保全に託そうとする取組である。平取は町の全域を景観計画区域に設定し、そのなかの6ヶ所のエリアを重要文化的景観の候補として申請し、文化庁によってそれが認められた。若桜も過疎の山間部を中心に文化遺産が点在し、質の高い文化的景観がひろがっている。平取に倣って町の全域を景観計画区域に設定し、そのなかで、①鬼ヶ城と城下町(宿場町)の景観、②棚田・杉林と歴史的建造物が集中する屋堂羅の農村景観、③氷ノ山の原生林と山麓の「竿屋造」民家集落の景観、④古代密教・修験道の景観、の4エリアを「八東川流域山間部の古代宗教と中近世都市・集落に関わる文化的景観」と総称し、重要文化的景観の候補として申請するのである。
 さらに、①については近江八幡の取組が参考になる。「近江八幡の水郷」は、史跡「安土城跡」と重伝建地区「近江八幡商家の町並み」を連結する役割を果たしており、その全体が広義の「文化的景観」となって、ひろい範囲の地域景観保全を実現している珍しい例である。若桜宿においても、国史跡の鬼ヶ城跡と伝建地区の価値を有する旧城下町(宿場町)エリアの複合性が強い。若桜の場合、町中を流れる水路も重要な景観要素であり、町を包むように流れる八東川と三倉川は、城下町の総外濠でもあった。川端からみる城跡の景観は壮大である。この八東川の対岸に、②屋堂羅の農村景観が展開しており、八東川とその支流を媒介として①と②を連結すれば、近江八幡に近い広範囲の景観保全が可能となるだろう。

2.板井原の景観計画とオーナー制度
 板井原は県の伝建地区に選定されているが、それは国の選定から漏れたことを意味している。「限界集落」化している現状にあって、県の「伝建」制度だけに頼っていても、景観を維持できる保証はない。そこで、「重要文化的景観」への脱皮を提言したい。板井原が建造物群にとどまらず、焼畑農耕地から転じた杉林や段畑、紅葉の美しい原生林と水系、養蚕業を反映する民家などの広い範囲の景観によって特色づけられているからである。いわば「因幡山里の非稲作系生業と土地利用を代表する文化的景観」として十分に重要文化的景観の価値をもつと考えられる。あるいは、上板井原に「赤波川渓谷甌穴群」や廃村化した下板井原も含め、より広い範囲を「因幡山里の非稲作系生業と土地利用を代表する赤波川流域の文化的景観」として申請するのも一案であろう。こうした重要文化的景観の「お墨付き」を得ることによって観光客の増加を促進し、一定の補助が期待できる。
 しかし、制度に頼るだけでは十分とはいえない。たとえば各地の重要文化的景観地区や日本の棚田百選の地区で展開している「棚田のオーナー制度」に倣って、「民家と休耕田のオーナー制度」を始めてはどうだろうか。空家となった民家をセカンドハウスとして休耕田を耕作するオーナーを募集するのであるい。このような活動をネット経由で全国に知らしめ、Iターン、Jターン、空家&休耕田オーナーを一人でも多く確保するよう努力するほか、板井原が「限界集落」から抜け出す方法はないだろう。そして、もしこのような板井原の取組が成功するならば、それは「限界集落」再生の突破口になるだろう。

  1. 2009/02/24(火) 00:02:57|
  2. 研究室|
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