川越視察の前夜、さいたまスーパーアリーナに行ってきました。浦和レッズと大宮アルディージャのフットサルの試合があったんじゃありませんよ。ジェフ・ベック&エリック・クラプトンのジョイント・コンサートがあったんです。いつかお話ししましたが、ワイフからの誕生日プレゼントというのは、このコンサート・チケットのことだったのですよ。チケットはさておき、旅費も大変な額になりますが、ANAのマイレージがたまってましてね。マイレージも使い方が難しくて、いざ使おうとしても、マイレージ用の席が切れていたりするもんで、結構早くから予約しなきゃなんないんですが、今回はうまくいきました。
モノレールからJR環状線、同高崎線と乗り換えて、さいたま新都心に近づいていくときの、あのワクワク感はなんだったんだろう。ほんと久しぶりの胸躍る高揚感に自分でも驚いてました。学生時代、大阪でみた全盛期のニール・ヤング以来じゃないかな。だって、ベックとクラプトンの正式な共演コンサートは世界で初めてなんですよ。これまで一方のバンドに他方が飛び入りしたなんてのはありまして、それをユーチューブでみることもできますが、そういうんじゃないですからね。結果として、まず言えることは記憶に残る「
人生の一日」になったということです。

さて、わたしは、もともとロック・ファンというほどではなくて、聞き手としてはフォークからジャズに飛んでしまったアコースティック派です。とくに、ブリティッシュ・ロックは、ビートルズを例外として、そんなに好きじゃありません。高校時代の友人たちが狂っていたツェッペリンもエマーソン・レイク&パーマーもピンク・フロイドも、そしてジェフ・ベックもどうでもよくて、ブリティッシュと言えば、なんと言ってもペンタングルでしたね。これは何度書いてもよいですが、ペンタングルは世界最強のフォーク・バンドです。おそらく、ジミー・ペイジですら一目おいていたバンドだと思います。
個人的には、やはりアメリカ音楽が断然好きでして、ディランはパスなんだけど、CSN&Yとか、『オン・ザ・ボーダー』までのイーグルスとか、スティーリー・ダンとか、ジェイムズ・テイラーなどがお気に入りでした。英国ロック3大ギタリストの代表とも言えるクラプトンも、アメリカで再生し音楽的に大成長を遂げたミュージシャンですよね。デレク&ドミノスも、461オーシャンブルーバードも、アンプラグドもよく聞きました。作曲は素晴らしいし、歌は年々うまくなっていって(加山雄三みたいだね)、作曲と歌とギターを総合させた大音楽家になりました。ただ、ギターの奏法を「進化」させようとはしなかった。むしろ、純粋なブルースを学ぼうとして、今回のライブもそうだったんですが、アコギでブルースの弾き語りを追及していきましたね。これはすごく好感がもてる。
一方、ジェフ・ベックもルーツはブルースですが、途中から
ジョン・マクラフリンなどの影響を受けて、ジャズっぽい要素を取り入れ、『
ブロウ・バイ・ブロウ』で大成功を納める。その後の進化は、もうギター一筋。今回もほんと驚愕のひと言でして、世の中にこんなギタリストが実在することを感謝しなきゃいけない。作曲もしないし、歌もうたわない。ただギター道を究め続ける64歳。
さて、コンサートは3部構成になってました。第1部:ジェフ・ベック、第2部:エリック・クラプトン、第3部:ベック&クラプトン。なんでこうなったのかは単純でして、第2部のクラプトンのバンドがそのまま第3部もうけつぎ、そこにベックが加わることにしたからです。言い換えるならば、クラプトン・バンドのゲスト・ギタリストにベックを迎えた格好なんですが、これがこれが・・・それで済まないところがジェフ・ベックというギタリストの恐ろしさでして、これについては次回以降に述べましょう。
第1部のジェフ・ベックで早くもぶっとびました。これでコンサートが終わっても、わたしはそんなに文句は言わなかったでしょう。それぐらいジェフ・ベックの演奏は凄かった。演奏曲目とメンバーについては、「続き」の文末に掲載しています。残念ながら「ベックのボレロ」で始まらなかったんですが、激しい曲とバラードを巧みに織り交ぜてのみごとのステージングでしたよ。「哀しみの恋人たち」「レッド・ブーツ」「グッバイ・ポークパイハット」などの名曲が、目の前で演奏されていることが信じられない。とくにベックがどのようにしてギターを弾いているのか、それを知りたいから、ステージはどうでもよくて、目を点にして、大型のスクリーンに集中しました。ひたすらスクリーンに大写しになった指使いを追ってみたものの、これはとても真似できない、と諦めるばかりです。ベックのコピーはできない。右手の4フィンガーと振動アームの使い方は神業に近いものです。なにをどうやって、一音一音トーンを変えているのか。しばしば、ボリュームやらトーンのスィッチにも触ってました。

何曲めだったか忘れたんですが、中程にスライド・バーを使う曲があって、チューニングはあきらかにレギュラーですから、弾きたい弦の上下のミュートが大変だろうな、なんて思ってみていたら、とんでもない奏法が始まったんですよ。スライド・バーを左手の指からはずして、右手でもち、ピックの代わりに使うんです。ピックというよりも、バイオリンの弓のような使い方といったほうがよいかもしれません。左手は6~7フレットあたり(B♭?)のセーハ・コードでがっちり固めたまま動かさない。最初は人工ハーモニクスの応用かとも思ってみてたんですが、違いましたね。ご存知ように、人工ハーモニクスの場合、左手と右手を12フレットの間隔で平行移動させなければなりませんね。しかし、何度みても左手はセーハコードで固定している。で、右手のスライド・バーはブリッジに近いあたりで弦をなでながら上下させ、メロディーを奏でていくのですよ。こんな奏法、みたことない。たぶん、固定した左手は「ブリッジ」の代用品で、反対の右手側はフレットレスの三味線状態になってるとしか言いようがない。ギターの左右を反転させてるんだ!
ベックのバンドでは、ご存知のように、若い女性ベーシストが注目を集めています。オーストラリア生まれのタル・ウィルケンフェルドという女性ベース奏者で、最近『トランスフォーメーション』というリーダー・アルバムを出し、『ベース・マガジン』誌の表紙を飾ったりしてます。ベックやチック・コリアからずいぶん可愛がられているようで、ネット上の情報を読むと、ジャコ直系のベーシストなんて評が目立ってます。3曲めの「哀しみの恋人たち」ではベックのソロのあとに、タルのベース・ソロが入って、凄い拍手をもらってましたが、わたしは彼女のソロを聞いていて、「やっぱり落ちるな」と少々落胆。もちろん、ベックのソロに比べて「落ちる」し、ジャコに比べると全然「落ちる」。

ベックのバンドに在籍すること自体、たいへんな勲章ですけれども、このようにリーダーとの力量の差をみせつけられるという怖さもあるんですね。リズム隊としてのタルについても、ドラムスのカリウタに救われてる感が多分にありまして、・・・うぅぅぅん、ベックとしてはタルを「育てている」って感じじゃないのかな。それと、20代前半の女性をベースに配しているという興業広報上の効果を狙っているってことなんじゃないかと。そういえば、ベックは90年代の終わり頃から3年ばかりジェニファー・バトゥンという女性ギタリストとツアーしてましたね。バトゥンも上手いけど、やっぱりベックと共演したら差が際だつわ。タルについては、まだ『トランスフォーメーション』というアルバムを聞いていないので(注文済)、ほんとうにジャコ直系というほどのベーシストなのかどうか分かりませんけど、今のベックと全盛期のジャコがぶつかりあったら、まぁあんなレベルでは済まない。
まだまだ書きたいことはあるけれども、きりがないのでこのあたりで。明日、続きを書きます。そうそう、ブログのテーマにした「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」は10曲めに演奏されました。ビートルズは凝りに凝ったシュールなバラードに仕上げてましたが、ベックもシュールでしたよ。最初と最後は綺麗なバラードなんだけど、中間部分はフリージャズに近い演奏でした。
人生のある日。凄まじい記憶を残した一日でした。
演奏曲目1.THE PUMP
2.YOU NEVER KNOW
3.CAUSE WE'VE ENDED AS LOVERS
4.STRATUS
5.ANGEL
6.LED BOOTS
7.GOODBYE PORK PIE HAT / BRUSH WITH THE BLUES
8.JEFF & TAL SOLO
9.A DAY IN THE LIFE
10.BIG BLOCK
11.WHERE ARE YOU
12.PETER GUNN
メンバーJeff Beck - Guitar
Tal Wilkenfeld - Bass
Jason Rebello - Keyboards
Vinnie Colaiuta - Drums
- 2009/02/28(土) 00:17:00|
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