
30分の休憩をはさんでセットが変わり、ポロシャツ姿のクラプトンがマーチンをひっさげてひとりでステージにあらわれました。なんでもカツ丼が大好物だそうですが、そこいらの大衆食堂に入ってくオジサンみたいにカジュアルないでたちです。で、クラプトンは椅子に坐った。1曲めは「ドリフティン」という有名なブルースの弾き語りです。3フィンガーというよりも4フィンガーっぽい肉弾きで、親指がすごく跳ね上がっているのが印象的でした。たぶんEキーのレギュラー・チューニングだと思うのだけど、間違ってたらごめんなさい。
アコギ1本の泥臭いブルースの弾き語りからスタートってのは大正解ですね。なにせ第1部でベックが強烈なエレクトリック・プレイを聴かせた直後なんだから、そのままエレクトリックで受けてたつには勇気がいります。ベックの余韻が残っている状態だったので、アコギ1本の弾き語りは非常に新鮮に聞こえました。ベックの進化したフュージョンっぽいサウンドに対して、ブルースのルーツに立ち戻った姿勢がよくあらわれていて流石だなと感心しきり。2曲めは「レイラ」のアコースティック・バージョンで拍手喝采。ここでバンドのメンバーもそろいまして、その次の3曲めだったと思うんですが、ギターを替えた。3フレットだったか5フレットにカポタストをはめて、いきなり開放弦でジャカジャカとストロークし始めたんで、たぶんオープンGチューニングだったんだと思います。アコギは4曲目までで、5曲めからエレキに持ち替えて「テル・ザ・トゥルース」。うぅぅ~ん、もう少しアンプラグドを続けたほうが良かったんじゃないかな。

くどいけれども、ベックの演奏が凄かったんで、エレクトリック・バンドの比較になると、クラプトンの分が悪いんです。これにはリズム隊も関係してますね。正直、スティーヴ・ガッド(dr)とネイザン・イースト(b)のセットがみたかった。ガッドとイーストを従えたクラプトンなら、ベックと張り合えた。それで「ティアズ・イン・ヘヴン」と「チェインジ・ザ・ワールド」をやってくれたら言うことなかったんだけどなぁ・・・やってくれなかったんですよ、この2曲を。残念無念! もう一言付け加えておくと、女性コーラス隊2名の見栄えがね・・・この点でもベック・バンドのタル・ウィルケンフェルドに軍配があがりました。
クラプトンの演奏場面でも、わたしはほとんどステージではなく、スクリーンを注視してましたが、正直、これならコピーできる。フレーズは素晴らしいですよ。2流のギタリストでは弾けないメロディアスなフレーズを弾いている。だけども、それをコピーできないことはない。コード進行の分かる楽譜と画像があれば、十分ついていけます。ローラン・ディアンスを弾くほうがはるかに難しい。ただ、昨日も述べたように、クラプトンは作曲と歌とギターを総合的に評価すべき大音楽家だから、ギターだけであれこれ言ってはいけません。ギターだけ上手くても、グラミー賞をとれるはずはないのだからね。クラプトンの場合、何回もグラミー賞をとってるんだから、そんじょそこいらのカツ丼好きじゃないわけです。
クラプトンは10曲演って、ただちに第3部に移行しました。クラプトンのバンドにベックが加わって、さぁさぁ大喝采。二人はマディ・ウォーターズの「ユー・ニード・ラブ」を始め、古典的なブルースを7曲続けて演りました。並のギタリストなら飽きてしまうところでしょうが、まったく飽きないのは二人の腕が尋常ではないから、と言えば当たり前。はっきり言うと、クラプトンはボーカルになっちゃいましたね。クラプトン・バンドにベックがゲスト・ギタリストとして迎えられたというよりも、ジェフ・ベック・グループのボーカリストをクラプトンが務めてるって感じがしました。それだけベックのギター・フレーズが凄いのです。ブルーノート・スケールの曲ばかりだから、アドリブで使う音は限られている。にも拘わらず、ベックのフレーズは変化に冨み、決してマンネリに陥らない。
わたしは密かに「
虹の彼方に Somewhere over the Rainbow」の共演を期待していたのです。ふたりとも独自のアレンジでこのスタンダードをカバーしているんですが、ムードは全然違う。でも、なんとかそれをクロスさせてくれないものか、と祈っていたのですが、あえなく空振り・・・二人とも自分たちのルーツであるブルースのギグに終始しました。それは二人が話し合った結果であり、わたしたちの入っていける世界ではないのでしょう。


ベック64歳、クラプトン63歳。この、ロックおじいさん2人をみるために、わざわざ埼玉の体育館に2万人の聴衆が二日連続で集まるんです。クラシックやジャズの分野で、これだけのお客を動員できるギタリストはいないでしょう。
喧噪のコンサートを終えたさいたま新都心を静寂が包む・・・宿舎はここでもTO横イン(↓)でして、駅前なのにひっそりしている。田舎なんだね、この町は。建物だけ立派で、昼間はその景観に圧倒されたけれど、夜になったら灯りが消える。ちょっと、板井原を思い出したりして・・・居酒屋風のラーメン屋さんで、担々麺スープの水餃子とつけ麺をすすりながら、クラプトンは今夜もカツ丼を食べているのだろうか、なんて想いを馳せた「人生の一夜」でした。
演奏曲目●ERIC CLAPTON
1.DRIFTIN
2.LAYLA
3.MOTHERLESS CHILD
4.RUNNING ON FAITH
5.TELL THE TRUTH
6.KEY TO THE HIGHWAY
7.I SHOT THE SHERIF
8.WONDERFUL TONIGHTS
9.COCAINE
10.CROSSROADS
●ERIC CLAPTON & JEFF BECK
1.YOU NEED LOVE
2.LISTEN HERE - COMPARED TO WHAT
3.HERE BUT I'M GONE
4.OUTSIDE WOMAN
5.BROWN BIRD
6.WEE WEE BABY
7.WANT TO TAKE YOU HIGHER
メンバーEric Clapton- Guitars, Vocals
Doyle Bramhall II - Guitar, Vocals
Chris Stainton - Keyboards
Willie Weeks - Bass
Abe Laboriel Jr. - Drums
Michelle John - Backing Vocals
Sharon White - Backing Vocals
- 2009/03/01(日) 00:03:18|
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コメント:2
夜分に失礼します。二夜にわたるベック・クラプトンライブ詳細レポートを堪能させていただきました。さながらライブ演奏を聴いていたかのように高揚しています。ベック懐かしいですね。blow by blow,wired は名盤だと思います。その後は疎遠だったので「ギター求道者」みたいなベックにうれしくなりました。それでは。
- 2009/03/01(日) 01:58:07 |
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- ko-m #ncVW9ZjY
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またしても、ご来場ありがとうございます。
もともとジェフ・ベックっていうギタリストは
そんなに好きじゃなかったんですが、
昨年末にユーチューブを漁っていて、
老練成熟した腕前にハートを撃たれて
しまいました。
コンサートに行って、心の底から満足できる
パーセンテージって、そんなに高くないと思う
んですが、今回のは良かった。
残すは、ジェイムズ・テーラーの「ワン・マン・バンド」
かな?
あれを現場で聞いたら泣いちゃいそうです。
- 2009/03/02(月) 18:11:36 |
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- asax #-
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