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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

『孫子』-解答のない兵法

 岩波書店から贈呈本が届いた。めずらしいことである。

   『孫子』-解答のない兵法

という新刊書。岩波が企画する「書物誕生 あたらしい古典入門」シリーズの一冊である。著者は日本を代表する中国語学者で、わたしとは縁遠い方のようにみえるが、これがそうでもない。大学の1期先輩で、出身が松江だったこともあり、学生時代、同じ山陰のライバル?として「目糞、鼻糞を嗤う」戦いをくりひろげておりました・・・
 それにしても、『孫子』という書物をご贈呈いただくのはもったいないことだと恐縮しきり。もちろん、孫子という人物やその兵法に興味をもっていないわけではないけれども、わたしの専門は「建築」であって、贈呈の対象リストから漏れたとしてもなんら不思議ではない。十年以上お目にかかっていない方でもある。なぜ、松江の先輩はわたしに『孫子』をお贈りくださったのだろうか。
 記憶が曖昧なのだけれども、ひょっとしたら、拙著『出雲大社』(2006)を贈呈したからかもしれない。出雲の出身だということで、贈呈した可能性はあるのだが、自分自身の記憶が定かではないのが悩ましい・・・

 著者は中国語学の専門家であるから、原典解読にあたって一語一句の検証が緻密なことでよく知られている。ところが、驚いたことに、引用する『孫子』の原文・読み下し文・現代語訳は、「原則として岩波文庫版の金谷治訳注『新訂 孫子』(2005)によることとした」と序に書いてある。その理由は、

   金谷訳は『孫子』原典の味わいをそのまま伝えようとしており、
   解説も簡にして要を得た信頼すべきものである。

 ここに使われている「信頼すべき」という形容詞に痺れた。著者ほどの中国言語学の大家ならば、『孫子』原典の一言一句を厳密に読み直す作業からスタートすることも可能であろうに、その仕事は先達の業績に委ねるというのだ。信頼すべき研究者が信頼すべき書として扱っているのだから、金谷本『孫子』の重みは計り知れない。
 この序を読むだけでも、心が痛む。自分は「研究者」として、どれだけ「信頼すべき」仕事をしてきたのか、とふりかえるならば、正直、うしろめたい。あちこちの情報を切り貼りして、どこまでがオリジナル・データで、どこまでが引用なのか分からない「雑文」ばかり書いてきたキャリアが恥ずかしくなる。

 『孫子』はまだ読み始めたばかり。概説書ではあるけれども、それほど簡単に読破できる書物ではない。いまはまだ冒頭の部分。孫武は実在の人物なのか。『孫子』は複数の人物が著した書ではないか。とすれば、書の成立年代はいつごろか・・・少し前に似たような文を読んだ記憶が蘇ってきた・・・ネパールにもっていった司馬遼太郎の文庫本『真説 宮本武蔵』。宮本武蔵という剣豪は、ご存知のように、じつは複数いたのではないか、という説が根強くある。司馬はこれを検証し、『五輪書』の名文を著し「枯木鳴鵙図」を描くような才をもつ人物は唯一人としか言えない、と結論づけていた。
 ならば、孫子はどうなのか。少なくとも、孫子は二人いる。春秋時代の呉孫子(孫武)と戦国時代の斉孫子(孫臏)であり、さて、二人の著した書にはどのような関係があるのか。これを理解するだけでも、なかなか大変だ。詳細はぜひとも本書をお読みください。


  1. 2009/04/21(火) 00:15:55|
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