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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

なめし皮のタンゴ(Ⅲ)-第10回六弦倶楽部練習会

06浅川02


3.なめし皮のタンゴ  Tango en skaï 

 「タンゴ・アン・スカイ」の楽譜は簡潔明瞭。見開き2ページのみである。これ以上、使いやすい譜面もないだろう。もちろんタブはついていない。タブはなくとも、譜面に少し書き込みをすればすぐに使えます。この書き込み作業は重要だ。わたしの場合、音符に対応するフレットの位置を小さな数字で書き込んでいく。この作業を続けていると、音とフレットの対応を掴めるようになる。タブだけだと、コピー音楽の表現はできるが、結局、どの音を弾いているのか分からないから、音楽的な進化として実を結び難い。
 ディアンス自身の楽曲解説(「続き」に全文和訳掲載)によれば、このタンゴは作曲されたものではなく、あるパーティで即興演奏したものだという。たしかに、ディミニッシュ・コードやメイジャー7thコードを多用し、その分解音のアルペジオで構成する部分がかなりなパーセンテージを占めていて、即興の産物と言われれば「なるほど」と頷ける。即興作品だけのことはあり、全体の構成は単純だが、上記の諸コードを分解した高速アルペジオなどの細部は技巧レベルが高い。唐突ながら、体操競技の鉄棒に喩えるならば、トカチェフ、ギンガー、コールマン、カッシーナなどE~F難度の離れ技が連発される感じ。フィギュアスケートのジャンプならば、4回転、トリプル・アクセル、2回連続のトリプル・ルッツを絶え間なく続けるようなものだ。こういう難度の荒技が「タンゴ・アン・スカイ」には4種類でてくる。しかも、ディアンスの指示によれば、一定のテンポで演奏しなければならない。タンゴはダンス音楽だから、速くなったり遅くなったりしてはいけないのである。テンポを崩せないのです。

 模範とすべき演奏の映像はユーチューブにたくさんある。最も重要な演奏がディアンスその人のものであることは言うまでもない。CDもたくさん購入したが、ディアンス自身のCDは入手できず、最終的に模範として聴いていたのはエレナ・パパンドレオウ(ELENA PAPANDREOU)という女性ギタリストの演奏。『ELENA PAPANDREOU PLAYS ROLAND DYENS』というアルバムの1曲めが「Tango en skaï」。大萩康司の『Bleu』というアルバムの最後の曲も「Tango en skaï」なのだが、低音が響きすぎてやや耳障り。エレナの演奏のほうが抑制が効いてよい音がした。昨年の秋から、ながくスィフトの6連奏チェンジャーは5枚目がヨークの『ハウザー・セッション』、6枚めがエレナの『プレイズ・ディアンス』だった。「レッティン・ゴー」と「タンゴ・アン・スカイ」をほぼ交互にかけて聴いていた。

06浅川05

 さて、難度の高い部分の練習はどうしたか、というと、反復しかない。しかし、単純な反復ではとても弾けない。ゆっくり弾くしかない。初めはゆっくりゆっくり弾き、少しずつ速くしていく。なんとか弾けるようになるまで3~4ヶ月かかった。この点において、練習会が半年途絶えたのは大正解だったのだ。今回の練習会で、わたしは「タンゴ・アン・スカイ」を上手く弾きこなせたとは思っていない。しかし、大きなミスを犯すことなく、弾き通せた。「タンゴ・アン・スカイ」という難曲を相手にして、人前で一度もストップしなかった。大袈裟かもしれないが、半年待った甲斐があったのだ。
 余談ながら、「タンゴ・アン・スカイ」の「スカイ」とは sky(空) ではなく、skaï(なめし皮) のことである。「なめし皮」は偽物の象徴であり、「タンゴ・アン・スカイ」とは「タンゴもどきの曲」を意味する。即興で作ったタンゴ風作品に対する自嘲を込めたネーミングなのだろう。

 以上、3曲の演奏を終えて、チョトロク代表からは「上手くなりましたねぇ、もう六弦倶楽部は卒業じゃありませんか」と言われた。きっとお世辞で、そんなに素晴らしい演奏ではなかったと思う。というか、わたし自身は自分の演奏が他の会員にどう聞こえたのかは分からない。ただ、わたしにしか分からないことが一つだけある。それは、

   「まったくアガらなかった。平常心と変わらない状態で演奏できた」

という事実。六弦倶楽部に参加してから苦節2年半。わたしは初めて緊張しなかった。微塵も緊張しなかったのだ。おそらく半年間の休養・充電とこの精神状態には相関性があるだろう。とうとう悟りを開いたのかな、だはは・・・「卒業」なんかしませんよ。冗談じゃない。これからが楽しみだもんね。
 会長、見捨てないでくださいよ。次回もよろしくお願いいたします。 (完)

08ブルース>




「なめし皮のタンゴ」返り咲き

 わたしがパリのルモアンヌ楽譜出版社に「なめし皮のタンゴ」の楽譜原稿を郵送した1985年のその日、2~3年後に世界を巻き込む成功をおさめるなどとは夢にも思っていなかった。わたしはそれを作曲したというよりも、1978年に開催されたパリのあるパーティで即興演奏したのだった。そして、わたしは自分がその曲の作者であることを明かすことなく、長年その曲をコンサートで演奏し続けていた。その理由を今は言えない。ところが、ある日、友人に諭された。この曲を公刊しないのは狂気の沙汰だ、と。こうして、この曲のプロローグが終わる。
 12年の歳月が過ぎ去った今日、多くの演奏を聴いたなかの一握りだけが感服に値するものだと認めなければならない。これが正直な気持ちではあるけれども、さらにわたしの主要な批判を付け加えるならば、演奏が極端にクラッシックっぽい「帯線や符尾に会釈せよ」【*1】というアプローチに支配されていることだ。それはしばしば誤ったルバート(テンポフリー)の流れを伴い、意図的に配されたラテンタンドス(漸次ゆるやかに演奏すること)を伴っている。このような演奏は、感覚的で、盛り場のエロティックなダンスとは無縁である。定義に従うならば、ダンス音楽のリズムは出だしのハーモニーから終わりのコードまで一定でなければならない。たとえ演奏者が自分の気持ちを露呈させようと決めたとしても、リズムの乱れがあってはならないはずだ。
 だから、優雅で装飾的なアプローチではなく、粗暴で犯罪的なヴェノスアイレスの郊外【*2】に住む人びとの心を惑わせるように演奏するのがふさわしいとわたしは感じている。
 このタンゴはジョークであり、そのタイトルが示すように、イミテーションである(「なめし皮」というのは、典型的なフランス語の比喩で「革の偽物」とかプラスティックを意味する言葉なのだから)。だからこそ、フォルテシモやピアニシモの表現やアクセントを過剰に、かつ誇張して、恥じらいもなくおおいに楽しみながら、幻想の精神をもって演奏すべきだ。
 このタンゴは(音楽の方向性が)限定的になってはいけない。いくぶんデリケートなクラシック音楽の小品ではあるけれども、あちこちにポピュラーなスタイルの影とエキゾチックな感性を散りばめている。技術的には難しい曲だということを否定できないし、奏者のストライド【*3】にも問題が発生する(テンポはわずかなズレも生じないよう演奏して!)。この小品が生まれたパーティの雰囲気を醸し出すよう努め、生真面目になってもいけないし、憐れみすぎてもいけない。あなたの心の奥底に微笑みを潜め、超然とした態度を維持してほしい。
 もし何かの幸運かオマケによって、書き込んでいない注釈がさしでがましくこのタンゴに迷いこんでくるならば、必ず作曲者はそれを心から歓迎するだろう【*4】。

   ロラン・ディアンス(Roland Dyens) 
   英訳: メアリー・クリスウィック(Mary Criswick)

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【解題と訳注】 上の文章は、アンリ・ルモアンヌ楽譜出版社の楽譜「ロラン・ディエンス なめし皮のタンゴ」(2008)の裏表紙に掲載された楽曲解説の英訳文を和訳したものである。ディアンスによる仏語の原文が書かれたのは1997年であろう。わたしは仏語を学んだ経験がないので定かではないけれども、おそらくディアンス自身が著した仏文はもう少し読みやすいのではないだろうか。一方、メアリー・クリスウィックの英訳は短文ながらきわめて難解で、意味を解しにくい部分が少なくなかった。和訳に自信がもてない。諸賢のご教示を仰ぎたい。

 訳註
*1: 譜面上におけるタイ(音と音をつなぐ記号)の部分を長めに伸ばしたり、曲の終わりをゆっくり演奏するというクラシック音楽の慣例をさす格言であろう。ディアンスは、「タンゴ・アン・スカイ」ではそのような慣例に従ってはいけない、一定のテンポを守らなくてはいけない、と強調している。
*2: ヴェノスアイレスの郊外に「下町」か「スラム街」があるということでは?
*3: 左指の届く範囲のことか? テンポのことか??
*4: おそらく、原曲を拡大解釈して演奏したり、即興演奏を付け加えたりすることを歓迎する、と述べているのだろう。

 
  1. 2009/05/02(土) 00:35:41|
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