第2章: 殺人事件のインチキ裁判p.12-17:小山訳
1. 賈雨村はもともと役人であったが、上司の怒りを買って罷免された後、林黛玉の家庭教師
になった。このたび彼は賈家の威信を借り、応天府の欠員に乗じて官吏に復帰したの
だった。赴任したばかりだというのに、雨村はすぐに一件の殺人事件の訴訟を請け負った。
2. 原告は訴えた。
「薛蟠(せつばん)は財を利用し威勢があるものだから、我家の主人である憑淵(ふうえん)
と一人の少女の買収で争い、我家の主人を殴って死なせたのです。」
3. 賈雨村は激怒して言った。
「こんなことがあるのだろうか、はやく殺人犯を捕らえて連れて来なさい」
命令を下し薛蟠を逮捕しようとしたとき、一人の門番が目配せし、これを制止した。
4. 賈雨村は、この門番を密室に連れて行った。門番は雨村の機嫌を伺いながら言った。
「旦那さまは、あの頃以来出世され、とうとう幼馴染の顔を忘れてしまったのですね。」
5. もともと賈雨村は落ちぶれて惨めな思いをしており、上京して科挙の試験を受けに行くだけ
の旅費を持っていなかったため、葫芦廟(ころびょう)に寄宿し、書画を売って生計をたて
ていた。
6. この門番はもともと葫芦廟の小坊主であった。葫芦廟が火災にあったので、まもなく転業し、
門番になったのだった。
7. 賈雨村は当時のことを思い出し、初めはちょっと驚いたが、すぐに門番の体を引き寄せ、
笑って言った。
「幼馴染であったか。」
そして、門番を座らせた。
8. 二人は、昔の職について語り合った。賈雨村が質問した。
「先ほど私の出した文書(命令)を、どうして制止したのか。」
門番はすぐに、一枚の紙を差し出した。
9. 門番は言った。
「これは護官符と言うもので、どの護官符にも、この省の役人や権力者の名前が
書かれています。薛家はまさにこの護官符に掲載されており、さらには賈家と
親戚関係にあることが書かれているのです。旦那さま、決して薛家の怒りを買う
ようなことをしてはなりませんよ。」
10. 賈雨村は門番がこのように言うのを聞いて、相手の言うことを探りながら聞いてみた。
「あなたの言うことを聞き入れるとして、犯人の行方をどうしても知りたくなった。」
11. 門番はかるく頷き、とても得意になって言った。
「私は誘拐された少女を知っています。言ってみれば、あの娘は旦那さまの恩人の
ようなものでしょう?」
12, 当時、賈雨村は葫芦廟に寄宿しており、近所の同郷の役人である甄士隠(せいしいん)
に経済的な援助を受けていた。おかげで、なんとか上京し科挙の受験を受け、役人に
なることができた。
13. 誘拐された少女は、他でもない、甄士隠の幼い娘であり、名は英蓮(えいれん)といった。
五歳の時、誘拐犯に連れ去られ、音信がまったくない。
14. 門番は言った。
「誘拐犯は彼女を現在まで養育し、まず彼女を憑家に売り、そして同時に薛家に売って
(二重売買し)、この一連の殺人事件を引き起こしてしまったのです。」
15. 賈雨村は、これを聞いた後、門番に問うた。
「これはあの娘の運命であり、他の人のせいではない。おまえの言うとおりにすると
すれば、この訴訟事件はどのように終わらせればよいのか。」
16. 門番は提案した。
「旦那さま、たとえば薛家の下男に薛蟠はすでに死んだと言わせて、薛家は憑家に
ただちに数百両の銀を賠償金として渡すようにと、再び判決を下すのがよいのでは
ないでしょうか。」
17. 翌日、賈雨村は裁判室に腰掛け、虚勢を張って何人かの薛家の下男を引き出して
審問し、この殺人事件に対するインチキの判決を下した。
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『紅楼夢』翻訳
オリエンテーション 『紅楼夢』翻訳
第1章 『紅楼夢』翻訳
第2章 『紅楼夢』翻訳
第3章
- 2009/05/22(金) 00:07:23|
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