奈良で過ごした週末の夕方、いつものように、
4号球をもって近隣公園に行った。キャッチボールやサッカーの練習をする子どもたちがすでに何人かいた。わたしはいつもの場所で、
キックボード落としゲームを始めた。初めは上手くいっていたのだが、最後にど真ん中の「5」が残って、なかなか蹴り落とせなかった。インフロントにひっかけて強く打ち、なんとか「5」を打ち落とすまで数回シュートを繰り返した。調子はよくない。体がなまっているので、グラウンドを走ることにした。1周めを終えたあたりで、背面から大きな声がした。
「すいませ~ん」
と少年がわたしを呼んでいる。なんだろうと思って、振りかえると、少年は、
「サッカー、教えてください」
と言葉を続けた。
その少年は朱雀FCに所属しているのだと言った。3人兄妹で、たぶん長男のおにいちゃんが小6か中1、真ん中のカナちゃんが小4前後、末っ子のショウタ君が小2前後ぐらいだろう。さっそく、「
鳥かご」をすることになった。ツータッチまでという規則におにいちゃんは慣れているが、ショウタ君は慣れていない。カナちゃんは女の子なのでタッチの回数は何度でもよいことにした。ショウタ君はどうしても3タッチ、4タッチまでいって、しょっちゅうオニ(ディフェンス)になる。お姉ちゃんもなかなかうまくパスが通らない。そうこうしているうちに、おにいちゃんの蹴ったボールがカナちゃんのみぞおちにあたった。カナちゃんはベソをかいた。
「カナは休んどり・・・」
とおにいちゃんは優しく声をかけた。練習は、トライアングル・パスに変わった。ショウタくんが2タッチまでにボールを離せないのは、トラップの方向がわるいからだ。
「ボールを止めるとき、ボールの出し手の方をむいたままトラップしては
いけないよ。次にパスをだす相手の方向に体を回転させてからボールを
とめて、そのままパスを出すんだよ」
と指示した。サッカーでもっとも重要な技術はトラップだ。ボールを止めた瞬間、選手はどれだけひろい視野をもっているのか、つまり、どれだけパスをだす受け手とオープンスペースを瞬時に認知しているのかで戦況が決する。良い選手は、猫背にならない。いつでも背筋がピンと立っていて、360°の状況を知ろうとしている。ベッケンバウアーやマラドーナの姿勢を思い浮かべていただきたい。
最後に3人が縦一列に並ぶパス練習をした。正面から来るボールを2タッチ以内に背面側の選手にパスするのだ。これもトライアングル・パスと同じで、ボールを止める前に体を回転させ、ボールに足が触れるときは、すでに背面側を向いていなければならない。ショウタくんはこの練習に苦しんだ。どうしても、初めにボールを止めてしまう。ボールを止めてから、体を回転させるので、タッチ数が増えてしまうのだ。時間はあっというまに過ぎ、暗闇が4人を包んでゆく。時計をみると午後7時半。わたしが「帰るよ」というと、兄弟は名残おしそうな表情をしてみせた。
「こんどはいつ来るんですか?」
とおにいちゃんが聞く。
「明日・・・は駄目だな、明後日の夕方、また来るよ・・・」
「友達を連れてきてもいいですか?」
「あぁ、いいよ!」
という受け答えをしながら、わたしは走って家に帰っていった。
2日後の夕方、わたしは兄妹との再会を楽しみにして、グラウンドへ向かった。しかし、グラウンドには人っ子ひとりいない。わたしはいつものキックボード落としゲームを始めた。この日の右足は快調だった。そこにリハビリをしている家内があらわれた。彼女はしばらくわたしの練習をみていたが、グラウンド外側の歩道をリハビリ・ウォーキングし始めた。わたしは彼女とは逆方向にグラウンドを走った。5周走った。3~4周めがとても辛かったが、5周目は楽になって、最後はスパートをかけた。
5分ばかり休憩して、キックボード落としゲームに戻ったが、左足で蹴ることにした。初の試みで、最初はうまくいっていたのだが、最後にど真ん中の「5」が残り、10回以上蹴っても打ち落とせなかった。最後はやはり、インフロントに軽くひっかけた強めのシュートで「5」をゲットした。
奈良に戻るのは2週間後。あの兄妹に再会できるだろうか。
- 2009/06/05(金) 00:07:06|
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