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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

スロージョギング

 わずか3週間ばかり前のことである。ワイフが古いズボンを何本か捜し出してきて、わたしに問うた。

   「ねぇ、穿いてみて。入らないんなら、リフォームに出すから」

 わたしのウェストは永く85㎝で、ズボンと言えばこのサイズを買うことに決まっていた。それが入らなくなったのは、ここ2~3年のことである。その出発点になったのは家内の病であり、引っ越しが追い打ちをかけた。前者によって不規則で偏った食生活に拍車がかかるばかりか、「ゆららの湯」に行く回数が激減し、後者でサイクリングが停止を余儀なくされたのだ。
 濃紺のスラックスを穿いてみたのだが、やはりわたしのウェストは受けつけなかった。左右のフックが相接しない。その後、家内はウェスト85㎝のズボンを6本リフォームに出した。CO-OPの横にあるクリーニング屋さんはリフォーム屋も兼ねていて、わたしが取りにいくと、

   「2本だけリフォームできましたが、あとは布の余裕が足りませんでした」

と答えた。2本のリフォーム代は、新しいズボンを2本買えるだけの値段だった。

 その直後、国営放送の看板番組『ためしてガッテン』の再放送をみる機会があり、わたしの人生は大きく軌道修正の弧を描き始める。
 番組の冒頭で「血圧が下がった」「善玉コレステロールが増えた」「体重が12キロ減った」「マラソンを完走できた」など、まるで『発掘アルアル大事典』のように胡散臭い感想が体験者から連呼されたのだが、なかなかその運動の正体があかされない。番組後半で判明したその正体はジョギングであった。
 正直、がっくりきた。ジョギングというか、長距離ランニングは苦手だからだ。わたしには向かない。ジョギングするぐらいなら「孤独なサッカー」のほうがマシだ、と瞬時に思った。しかし、それは、ただのジョギングではなかった。司会者は言った。

   「スロージョギング」

なのだと。
 「ジョギング」と「スロージョギング」は何が違うのか。後者はほとんど歩くようなスピードで走るランニングである。ジョギングは人によっては苦しくて長続きしないが、スロージョギングは苦しくないから長続きする。というか、今日すれば、また明日もしたくなる、という反復意欲の湧く高齢者・女性向けの運動である。科学的な根拠があるのだ。筋肉には「速筋」と「遅筋」がある。「速筋」はヒラメで、「遅筋」はマグロ。「速筋」はヒラメのような白い色をしていて、瞬発力をともなう動作に使う筋肉であるのに対し、「遅筋」はマグロの赤身のような色をしていて持久力に必要な筋肉だという。テリトリーを守りながら俊敏に動くヒラメに対して、大海原を回遊するマグロを対比的にイメージしていただきたい。
 要するに、わたしたちのような中高年がジョギングして苦しいのは「速筋」を使うスピードで走っているからであり、「遅筋」だけ使うようなゆるゆるの走行ならば苦しくない、というのがスロージョギングの体育理論的背景である。そして、画面の向こうの体験者たちは口をそろえて「楽だ」「また明日も走りたい」と言う。その夕方、鳥取に移動する深夜のETC走行を控えていたにも拘わらず、わたしはスロージョギングにチャレンジした。いつも苦しくて仕方ないニュータウンの街区を一回りしてみたのだ。たしかに楽だった。それまで15~20分で走っていた距離を30分かけて走った。帰宅しても、まったく息があがっていない。初めてこの街区を一周したとき、息は乱れ、目は充血して、しばらくソファを動けなかった自分が嘘のようだ。えらい違いではないか。


 スロージョギングの疲労感は薄かった。帰宅しても水分を補給することなく、かるく台所の手伝いをしてから風呂に入る。以来、奈良で過ごす週末は毎夕、スロージョギングをするようになったのである。いまや「孤独なサッカー」は過去のトレーニングとなり、未だにあの3兄妹とは顔をあわせていない。そして、ついに今日(ブログがアップされる数日前)、わたしはスロージョギングで街区を2周走ってしまった。一人のマダムがわたしを追い越していった。悔しくもなんともない。彼女はジョギングで、わたしはスロージョギングなのだから。スロージョギングの場合、上り坂もさほど苦にならない。ゆっくりゆっくり走ればよいのだ。少し苦しくなったら、次のような呪文を頭のなかで反復する。

   「ゆっくり走る者は遠くまで往く」

 わたしの腹はまだ出ている。ただし、体全体の膨らみがやや薄れた。それを実感している。家内は、わたしの腹をみながら、クリーニング店から戻ってきた4本のズボンのうちの1本を穿いてみたらどうか、と提案した。その気になった。そしてね、納まったのですよ、みなさん。フックとフックがカチッと嵌ったんです。2~3㎝距離があってつながらなかったフックがつながったんです。
 ご存知のように、鳥取では別のトレーニングをしているので、この減量のすべてがスロージョギングのせいではない、とも言えるのだが、本人の実感としては、なによりスロージョギングが効果を発揮していると信じて疑っていない。

 なにをしても痩せなかった。じつは、いろんなダイエット食品を取り寄せた経験があり、ご存知のように、腰巻き振動バイブも買いましたよ。でも、結局、駄目だった。
 その点、スロージョギングは革命的だ。食生活はなにも変えていない。まるで麻雀ゲームのように、「またしたくなる」運動であるところがなにより素晴らしい、というか、恐ろしい。奈良は雪も降らないから冬でもできる。わたしの人生は日常性のなかで新たな一歩を踏み出した。(続)



 *「スロージョギング(Ⅱ)」は、こちら のサイトでご覧いただけます。

  1. 2009/07/03(金) 00:00:17|
  2. スポーツ|
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