第9章 散花と麝香の腕輪p.54-59:今城訳
1.ある日の早朝、賈宝玉は瀟湘館へ行って林黛玉とおしゃべりをした。
彼は意識的にではないのだけれども黛玉の機嫌を損ねる話をしてしまった。
黛玉はたちまちむっとして、泣きながら外へと出ようとしたため、
賈宝玉は急いで許しを請うた。
【セリフ】
賈宝玉:「いい子だから、機嫌を直して。私は二度と言わないから。」
2.この時、襲人(賈宝玉付きの侍女)が来て、
「旦那さまが宝玉さまを呼んでいますよ」
と言った。賈宝玉がおっかなびっくり庭に出て初めて薛蟠が自分を
騙したのだと気づいた。
3.薛蟠は言った。
「明日は私の誕生日ですから、だれをおいてもあなたには来ていただいて
にぎやかに過ごしましょう。」
賈宝玉は(無言で)ただ歩いていった。
4.賈宝玉は夜になってようやく家に帰ってきた。林黛玉は怡紅院に向かおうと
してあちこち見渡すと、薛宝釵が怡紅院に入っていくのが見えたので、
沁芳橋のあたりで水鳥が水遊びするのを眺めていた。
5.しばらくして、林黛玉は怡紅院に着いた。ふと見ると院門は閉まっており、
すぐに門をたたいて誰かに門を開けさせようとした。
【セリフ】
林黛玉:「私ですよ、それなのに戸を開けに来ないの?」
6.女中はみな動きたがらず、そのうえ黛玉の声を聞き分けられなかったので、
「おぼっちゃま(賈宝玉)が、どんな人でも入ってくることは許さないと
おっしゃいましたよ」と言いとぼけた。
7.林黛玉はそれを聞き、門の外で怒りのあまりあきれ返ってしまった。
彼女は部屋の中から賈宝玉と薛宝釵の楽しげな笑い声が聞こえてくるので、、
自分は独りぼっちで居候の境遇にあると思ってしまい、外壁の入隅に立ち、
悲しくなって泣き始めた。薛宝釵が出てきた後、黛玉はようやく瀟湘館へ帰った。
8.翌朝早く、賈宝玉は林黛玉に会いに来た。林黛玉は侍女の紫鵑に部屋を
片付けるよう言いつけた後、身を翻して出て行った。
9.賈宝玉は林黛玉が自分を相手にしないのを知った。さっぱりわけが分からない
まま、たくさん花が散っているのが目に入ったので、服の前おくみに花びらを
くるみ花塚に向かって歩いていった。
10.歩いていると、突然近くから小さな泣き声が聞こえてきた。宝玉は足を止め
注意深く聞いたところ、ひどく悲しみを覚え、その痛みが心を突き刺した。
11.林黛玉は昨夜の出来事によって傷つき苦しんでいたわけで、
散り花を埋めているときに感情が発露し、「葬花詞」一首を吟じた。
12.悲しんでいる声を耳にして、賈宝玉は思わず声を出して泣いた。
林黛玉は顔を上げ見あげて、賈宝玉だと分かると、
長いため息をついて歩き始めた。
【セリフ】
林黛玉:「あぁ、あなただったの・・・・」
13.賈宝玉は林黛玉がなぜ怒っているかについて問いただした。林黛玉は
昨夜の出来事を話し出したのだが、賈宝玉が確かに事実を知らないと
分かったので、彼を許した。
14.まもなく端午節がおとずれようとしているころ、元妃(元春)が供え物をお送り
くださった。賈宝玉は供え物を一通り見て、すぐに賈母のところへ行った。
15.薛宝釵もちょうどそこにいた。薛宝釵が一対の紅麝のうでわ
[訳註:絵本ではブレスレットとして描かれているが、文脈よりとらえるならば、
脇の付け根につける腕輪。麝香(じゃこう)の匂いのする赤い色の装飾品で、
その香りは男性を刺激する]を手に入れたと聞き、賈宝玉はすぐさま彼女に
はずして見せてくれるよう頼んだ。
【セリフ】
賈宝玉「お姉さん、私にあなたの紅麝のうでわを見せてくださいよ」
16.薛宝釵は腕輪を外すほかなかった。すると、雪のように白い二の腕があらわになった。
賈宝玉は薛宝釵が「玉(ぎょく)をもつ男に嫁ぐ」という話を思い出し、(宝釵をみつめて)
呆けてしまった。
17.薛宝釵は二の腕の紅麝のうでわを外し賈宝玉に手渡したが、彼がぽうっと
なっているのが分かり、(その反応として)自分の顔が赤らんだことも知らず、
腕輪を放り出し、そっぽを向いて部屋を出て行った。
*絵本版『紅楼夢』の翻訳シリーズは以下でご覧いただけます。
『紅楼夢』翻訳
オリエンテーション 『紅楼夢』翻訳
第1章 『紅楼夢』翻訳
第2章 『紅楼夢』翻訳
第3章 『紅楼夢』翻訳
第4章 『紅楼夢』翻訳
第5章 『紅楼夢』翻訳
第6章 『紅楼夢』翻訳
第7章 『紅楼夢』翻訳
第8章 『紅楼夢』翻訳
第9章 =これで前期の輪読授業はお終い。院生にとって猛烈に忙しい夏休みがはじまります。
続きは後期のお楽しみ!!=
10月第1週より翻訳を再開しました。
『紅楼夢』翻訳
第10章
- 2009/08/03(月) 00:00:50|
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