救世主は本田ではなく、稲本だった。
5日の夕方、世界遺産の町並み保存地区「平遙」の四合院住宅を改修したホテルで無線ランが繋がり、オランダ戦の結果を知った。
0-3
両チームのメンバー一覧をみて、「まっ、妥当な結果だ」と頷き、タクオもまた首を縦に振った。
平遙には欧米からの旅客が多く、中国内では珍しいことに、米ドルが使える。わたしは
ネパール巡礼の際に交換したドルをたくさん残していたものだから、急にリッチな気分になり、美人の女将さんがいるカウンターに行って中国産最高級のワインを2本続けて注文した。ドルで払って、お釣りは中国元・・・
四合院中庭のテーブルで、ワインを飲みながら、サッカー談義に花が咲く。
ボランチかサイドバックに大型の選手が必要だと前から思っていたのだが、実際に名前をあげるとなると、今野ぐらいしか思い浮かばない。そのときタクオが稲本の名前を口にした。
「そうだ、稲本がいい。あれはフィジカルが強いし、勝負勘がある」
アジア予選を戦った日本代表は小兵のチームだ。180㎝を超える大型の選手は闘莉王と中澤だけ。日本がアジアに誇る、この大型のダブル・ストッパーも、9日のガーナ戦では屈強な相手フォワードに歯が立たない。3失点のうちの2点めと3点めは、1対1の個人戦で闘莉王と中澤がワールドクラスのストライカーに通用しないことを明白にした。これを補うのは、ボランチとサイドバックのカバーしかない。どんな局面でも、2対1の数的有利をつくっておかないと、日本の守備は蹂躙されてしまう。安全策をとるならば、背後に一人スウィーパーを余らせて3バックにする手もあるが、そんな古典的な戦術をとれば攻撃が手薄になる。
闘莉王と中澤の前にあって、その中間にドガンと構えるセンター・オブ・ミッドフィールドが欲しい。いわゆるワイパーのポジションだが、たんなる「掃除役」にとどまらず、攻撃の起点となってゲームメークでき、ときに前線にまでかけあがって得点を狙える選手でなければならない。ミランやアヤックスにおけるかつてのフランク・ライカールト、国内ならば鹿島アントラーズ全盛期のジョルジーニョがこの理想像にあたるであろう。
いまの日本でこの大役を務めうる選手は稲本しかいないのではないか。
劣勢のガーナ戦後半、次々と選手交替がなされた。タッチラインの外で待機する交替選手のなかで稲本はひときわオーラを放っていた。玉田にも似たオーラを感じた。この二人がなにかをするかもしれない。そう思って試合をみていたら、1-3となって、オランダ遠征は2連敗か・・・
そこから信じられないような逆転劇が始まった。ガーナが3日前にW杯アフリカ予選の試合を終えたばかりで疲れきっていたのは事実である。かつての日本ならそんなガーナを崩すこともできなかっただろう。ところが、まず玉田がガーナの守備陣を切り裂いた。玉田のスピードは世界の強豪にも通用するだろう。そして、稲本が脅威のクロスとミドルシュートで試合をひっくりかえした。だれがどうみても、この試合のMVPは稲本である。
1年後のW杯で、かりに稲本をセンター・オブ・ミッドフィールドに置くとする。その両翼にボランチを2枚配して、4バック3ボランチシステムをとると仮定する場合、両翼のボランチのうち1枚は運動量の多い長谷部でよいだろう。もう一人をだれにするか。
わたしは遠藤、中村俊輔、中村憲剛のうちの一人でよいと思っている。基本的に、この3人を併用することは避けたい。理由は簡単。タイプが似すぎている。3人ともスキルは高いが、フィジカルは強くなく、スピードがない。
残る前線の3名をどうすべきか。コンディションの良い選手を使うしかないのだが、問題は本田だ。ユーチューブをみる限り、たしかにVVVにおける本田のプレーは強烈だ。しかし、VVVの同僚からは「ユーチューブのなかだけの選手」だと揶揄されているとも聞く。ガーナ戦をみる限り、未だ過大評価の感をぬぐえない。ただ、かれには3つの利点がある。身長180㎝の大型で、フィジカルが強く、若いことだ。守備をしないのが最大の欠点として取り沙汰されており、たしかにそのとおりだと思ったけれども、それならフォワードとして扱えばよいのではないか。
はじめに述べたように、今の日本代表は小兵すぎる。稲本と本田で、その弱点をいくばくはカバーできるように思うのだが、どうだろうか。
結論を述べるならば、トップ下を固定せずに、3トップにしたらおもしろいだろう、と思うのである。たとえば、左から玉田、岡崎、本田と並べてみたらどうなるか。本田は右に張らせておいて(右のバックは専守防衛型とする)、玉田と岡崎は中盤から前線にかけて動きまくるというアイデア。ほかに、森本、大久保もいる。この5人のうちコンディションのよい3名を前線におけばいい。玉田と大久保は中盤の動きもできるし、いざとなれば、センター・オブ・ミッドフィールドの稲本がゲームメークすればいい。
結果としてみれば、システムは4-3-3。もう少し詳しく表現するなら、4-1-2-3。
ガーナ戦は今後の代表チームづくりの画期になる試合のような気がしてならない。後半、中村俊輔が本田に交替してから、日本代表は5分間で3点連取し、試合をひっくりかえした。だから、本田がよいと言いたいわけではない。中村俊輔がいないチームでも十分機能することを立証した試合であり、世代交代を強く印象づけた試合であった。そして、そのチームの中核として際だった存在感を示したのは稲本だった。
中村俊輔はアジア予選において必要不可欠の選手だが、W杯本戦ではおそらく通用しないだろう。その現実をわれわれはドイツW杯ですでに目の当たりにしている。ドイツで通用したのは中田であり、中村ではない。南アW杯で、チームの中心となるべき選手は、中村でも遠藤でもなく、稲本であり、稲本を中心とするチームづくりが岡田監督の頭にあるのかないのか、まぁどうでもよいか・・・
赤と白のワインをあけた平遙四合院の院子(中庭)を、いまもよく想い出す。
- 2009/09/12(土) 00:45:56|
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