第10章 玉房を切り刻む女心p.60-65:岡垣訳
1.5月1日その日、賈府の多くの女性たちと賈宝玉は一緒に清虚観に行って、
焼香し、観劇した。まもなく清虚観に到着しようとしたとき、清虚観の張道士が
早くから弟子や孫弟子をつれて道端に出迎にきているのが見えた。
2.賈母たちが駕篭から降りると、張道士は急いで迎えに来た。
賈宝玉は、
「張おじさま、お変わりもなく」
と言いながらお辞儀をした。
3.張道士は賈宝玉を散々誉めあげた上に、彼に縁談の話を持ち出した。
賈母は言った。
「宝玉はまだ子供です。もうしばらく待ってからにしましょう!」
4.賈母たちは清虚観のいろいろな所で一通り遊んだあと、芝居(劇)を見に
行きたいと思った。 このとき張道士は、さまざまな仏具を持ち上げてみせ、
賈宝玉にさしあげた。
5.一同は演劇場の二階にあがって席についた。賈宝玉は仏具をより分け、
手にとってみた。賈母は言った。
「この麒麟にはすいぶんと見覚えがあるわ。誰かが身に着けているのと
よく似ていますよ。」
【セリフ】
賈宝玉:「おばあさま、これを見て、如何思われますか?」
6.薛宝釵は言った。
「
湘雲さんが持っていますわ。」
賈宝玉はそれを聞いたあと、史湘雲のために取っておこうと思い、こっそり
しまったのだが、林黛玉に見つかってしまった。
7.賈宝玉は、すぐに弁解した。
「これは私があなたに取っておいたんだ。帰ったら身に着けるといいよ。」
林黛玉はそっぽを向いて言った。
「私、そんなもの珍しくもなんともないわ。」
8.観劇が終わって賈府に帰ると、賈宝玉は張道士が縁談をもちだしたことで、
腹を立てて言った。
「今後、二度と張道士には会わないよ。」
9.林黛玉は(宝玉の心を)探りながら言った。
「あなたは、あなたの金玉の良縁を張道士に断ち切られそうだったのを
恐れているのね。」
賈宝玉は、林黛玉が自分と彼女との仲を疑っているのだと思った。
10.賈宝玉は思った。
(私はあなただけが心の中にあるのに、あなたがいつも金玉の説を疑うの
ならば、この玉を捨てたほうがました。)
こうして、賈宝玉は命を顧みず玉を投げ捨てた。
11.林黛玉は、賈宝玉が玉を投げつけるのを見て、大声で泣き始めた。
紫鵑(黛玉の侍女)は、この状況をみて仲裁しにやって来る一方で、
襲人(宝玉の世話人)を呼びに行く使いを出した。
【セリフ】
召使:「襲人お姉さま、早く(喧嘩の現場を)見に行ってください。」
12.襲人がやって来ると、笑いながら言った。
「若様(宝玉)が身につけている玉の房(ふさ)のよしみを考えても、あなたは
お嬢様(黛玉)と言い争いをすべきではありませんわ。」
13.林黛玉はそれを聞いて、急いで玉の房を奪ってハサミを入れた。襲人と紫鵑が
やってきてハサミを取り上げたときには、玉の房はすでに切り刻まれていた。
【セリフ】
林黛玉:「こんなの、力の無駄遣いよ。」
14.このとき、すでに知らせを聞いていた賈母と王夫人(宝玉の母)が、
急いでやってきた。襲人と紫鵑を一度とがめると、賈宝玉を連れて行った。
15.賈宝玉が戻ってきてから、襲人は賈宝玉に言った。
「私は、今日のことは若様の過ちだと思いますわ。あなたはただちにお嬢様に
あやまりに行くべきですよ。」
16.こちらでは、紫鵑も林黛玉をなだめていた。まだ林黛玉の返事がないうちに、
賈宝玉が部屋に入ってきた。
【セリフ】
紫鵑:「なんだってまた思うぞんぶん房を切ってしまったの。お嬢様の
過ちじゃないですか。」
17.賈宝玉は寝台の縁に坐って言った。
「私のことを怒らないで。他の人に私たちがまた口論をしたと思われてしまうし、
なんだか疎遠になったように見えるよ。」
続けて賈宝玉はよい話を積み重ねていった。鳳姐(王熙鳳)が仲介しに来たとき、
二人はすでに仲よくなっていた。
*お待たせしました。絵本版『紅楼夢』の翻訳再開です。入り乱れる恋愛関係の奥底に
流れる闇の神仙世界が少しずつ姿をみせはじめていますね。
乞御期待!
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『紅楼夢』翻訳
オリエンテーション 『紅楼夢』翻訳
第1章 『紅楼夢』翻訳
第2章 『紅楼夢』翻訳
第3章 『紅楼夢』翻訳
第4章 『紅楼夢』翻訳
第5章 『紅楼夢』翻訳
第6章 『紅楼夢』翻訳
第7章 『紅楼夢』翻訳
第8章 『紅楼夢』翻訳
第9章 『紅楼夢』翻訳
第10章 『紅楼夢』翻訳
第11章
- 2009/10/11(日) 00:18:13|
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