生きている景観 12月18日(土)~19日(日)、奈良文化財研究所が主催する第2回文化的景観研究集会に参加してきました。会場は研究所に隣接する奈良県歯科医師会館講堂で、全国各地からおよそ200人の方が集まりました。
昨年度おこなわれた第1回研究集会のテーマは「文化的景観とは何か? その輪郭と多様性をめぐって」でした。今回のテーマは「生きたものとしての文化的景観 変化のシステムをいかに読むか」選定済みの重要文化的景観やこれから取り組みを始める地域など、実際の活動に携わっている方々から、そのエリアの文化的景観について何を評価したのかなどを具体的に聞くことができ、とても興味深かったです。
今回の研究集会では「変化」が大きなテーマでした。これまでの文化財は「不変」のものを変更しようとすると強い規制をかけていましたが、文化的景観はそもそも生活や生業を含み、変化を含むものとなっています。この変化をどうとらえるのかということが議論の中心となっていました。報告の中では、土地利用やその土地の歴史の重層性、建物などの目に見える「有形のもの」と人々の記憶などとして受け継がれてきた「無形のもの」をキーワードに据えて変化をとらえていました。
特に印象深かったのは、先日12月11日に重要文化的景観に加えることが答申された長崎県の「平戸島の文化的景観」です。平戸島の文化的景観は、島という地形を生かして棚田などの農地や居住地を形成した集落景観を示すと同時に、隠れキリシタンを含む様々な信仰が融合して生まれた独自の伝統に基づく、社会的・空間的特性を示すものとなっています。ここでは、土地の変化を追っていくなかで、現在に残る土地の利用方法や記録されている昔の姿の他に、信仰のなかで聖地とされている場所などの無形の要素を加えて、文化的景観の形成過程を把握していました。ただの山と集落の位置関係という有形の要素だけではなく、聖なる山とそれを信仰する人々との距離感などという無形の要素を合わせて、その土地のもつ歴史と変化をとらえています。


人びとの信仰など目に見えない要素がたくさん絡み合って一つの場所が形成される。その表象として視覚的にとらえられる景観というものの、場所の意味を突き詰めていくことの重要さを今回知ることができました。また、最後の討論では、「宇治の文化的景観」を中心として、都市の文化的景観のとらえ方の難しさが浮き彫りになったように感じました。棚田などの農林水産業に関連する景観は比較的変化が緩やかですが、都市の場合は変化がめまぐるしく、また予測がつかないといった点で、どのようにその景観を守るのかなどといったことが討論されていました。そのなかで、やはりその土地がもつ歴史や場所の意味が重要であり、「目に見える建物などは新たに建て変わってもいい」という考え方もあることを知り、とても驚きました。そして、文化財として重要な建物などであれば、別の文化財の部類で保存をおこなえばよいとも聞き、確かにそうだとも思いました。こういった建物や史跡などの有形のもの、人びとに受け継がれる記憶などの無形のもの、さらに祭りの御輿など動産的な文化財まで、すべてその土地を構成する一つのストーリーとして「広義の文化的景観」がとらえられるのではないかという話もうかがうことができました。
とても有意義な研究集会に参加でき、良かったと思っています。
最後になりましたが、出来上がったばかりの「大山・隠岐・三徳山-山岳信仰と文化的景観-」シンポジウムのポスターとチラシも持参し、会場の一角に置かせていただきました。多めにもっていっていましたが、最後には半分くらいに減っていたので、参加したのほとんどの方に手にとっていただけたのではないでしょうか?
奈良文化財研究所の皆様、ご対応ありがとうございました!(部長)

(左)第2回研究集会の次第 (右)「大山・隠岐・三徳山」シンポの広報
- 2009/12/29(火) 00:00:34|
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