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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

「無」の空間

01池之内・條01塀01断面01


4世紀の方形区画

 寒風のなか、御所市の池之内・條地区発掘調査現場を視察した。京奈和自動車道御所道路建設のための事前調査を橿原考古学研究所が担当している。
 4世紀の方形区画が2列出ているのだが、その特徴を言葉だけで表現するのは難しいので、段ボールに模式図を描いてみた(↓)。

01池之内・條01塀06平面モデル 西側の方形区画2はとても長く、南北両辺と西辺の塀状遺構がほぼ直交関係を保っているが、東側が変則的。南半は他の3辺と直交関係を維持しているのに対して、北半はわずかに東に触れ、北半と南半の塀が接しあわない。その隙間に区画施設の入口があったとみられる。大阪府八尾市の心合寺山(しおんじやま)古墳で家形埴輪を塀でかこむ「囲形埴輪」(5世紀前半)が出土しており、その塀が方形区画2と同じ構造をしていることを調査担当者はつきとめている。橿原考古学研究所から送られてきた資料のなかに心合寺山「囲形埴輪」の写真も添付されており、その入口のあり方だけでなく、塀の造形にも驚いた。われわれが纏向遺跡の塀・門を復元するにあたって参照した今城塚古墳出土の塀と同形式の矢板竪板壁やそれをとめる柱と横桟が鮮明に表現されていたからである。
 しかも、池之内・條地区でみつかった二つの方形区画は竪板を左右で挟み込む双子柱の構造をもち、竪板を落とし込んだ溝状の布掘もはっきり残っている。わたしたちは竪板列を区画内側の1本柱と横桟で支える構造に復元したのだが、なるほど内外2本の柱で支えれば基礎構造はおおきく安定感を増すであろう。
 さて、予め送られてきた資料によれば、東西二つの方形区画には「顕著な建物遺構が検出されていない」ということだったのだが、わたしが訪問した仕事始めのその日、西側の区画2で大型建物がまとまったという報せが調査員からあり、スタッフ全員にどよめきがひろがった。その建物は方形区画の入口に近い北寄りにあり、二面庇もしくは四面庇をもつ平面に復元できそうである(1月21日註;3×2間にまとまったとか?)。また、区画2では南側に目隠し塀のような布掘りも発見された。これにより、方形区画2は豪族居館の「正殿ブロック」として理解できそうである。それは、言うまでもなく、心合寺山「囲形埴輪」の姿に重なり合う。
 東側の方形区画1は方形区画2の東辺北半の塀と平行関係を保っている。まずは西側の方形区画2=「正殿ブロック」が造営され、その後、区画2東辺北半の塀の方位にあわせて方形区画1が造営されたプロセスを暗示させる。

01池之内・條01塀02隅



01池之内・條01塀03深い穴01

 方形区画1(30×14m)の内部では、中央に近い部分で小さな2棟の南北棟掘立柱建物が検出されているのだが、塀との共存関係は不明である。いずれも塀に近接し、しかも2棟相互が近接しすぎている。この2棟が併存したとなると、区画を南北に分断することになり、細長い区画の意味が失せてしまう。ただし、東側の南北棟はその中心軸が区画の中心軸と一致するという。以上から、方形区画1については、「区画内には1棟の建物も存在しなかったか、東側の小さな南北棟1棟だけが存在したエリア」という私見を示しておいた。もともとこのブロックについて、研究所は「聖域」あるいは「祭場」などの特別なエリアと捉えているようであり、4世紀という年代相を考慮するならば、常設の神殿など存在しない「無」の領域として理解するのが賢明であろう。あえて類例をあげるならば、伊勢神宮「古殿地」のイメージである。
 じつは、ちょうどいま『出雲大社の建築考古学-山陰地方の掘立柱建物-』の「まとめ」の文章を詰めている段階で、こんなブログの執筆編集は一刻も速く終わらせて、本業に戻らねばと焦っているのだが、田和山および妻木晩田洞ノ原の山頂環濠エリアのことを想い起こさずにはいられなかった。弥生時代中期の高地性集落において、環濠は丘陵の頂部を囲み、住居集落はその外側にあった。環濠に囲まれた頂部には「まったくなにも存在しなかった」か、または「九本柱(六本柱の可能性もある)だけが存在した」かのどちらかだと推定されている。環濠によって人間を排除した山頂が天界と交流する「聖域」もしくは「祭場」であった可能性は高く、だとすれば、山頂環濠内部もまた「無」のエリアであることに意味をみいだせよう。

 超自然的存在と交流する場所が、山陰の弥生時代では山頂環濠の内部にあり、大和の古墳時代4世紀には方形区画のなかにあった。いずれも人や建築を排除する「無」の空間であったとすれば、とても興味深いことである。

01池之内・條01塀05全景01サムネイル




  1. 2010/01/07(木) 00:00:15|
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