日本国内でおこなわれる試合をみて久々に興奮した。成人の日の午後、たまたまテレビのチャンネルをまわしていたら、高校サッカー選手権決勝の画面に切り替わった。後半02分30秒の時間表示が画面の左上に示されている。すでに山梨学院大附属高校が1点先取し、リードを奪っていた。
いきなり、山梨学院大附のカウンターが青森山田の守備網を切り裂く。時間がたつにつれ、山梨のリアクション・サッカーに目は釘付けになっていった。思わず声がでてしまう。日本代表の試合とか天皇杯をみていても、こういう反応をすることは久しくなかったのだが、この日はちがった。
山梨の守備ラインは深い。オランダに代表されるヨーロッパ型のモダンフットボールにおいては、守備ラインを浅くするのが常識になっている。とりわけ自軍の攻撃時には、ハーフェイ・ラインの手前までラインを押し上げ、前戦と最終ラインの間を20~30メートルに絞って連続攻撃をしかける、というのが今日の攻撃型サッカーの常道であろう。しかし、必ずしも日本にこの戦術が向いているとは限らない。
4年前のドイツW杯の直前、当時のダブルボランチ、中田英寿と福西の間で壮絶な論戦があったことはよく知られている。「どこでボールを奪いに行くか」で二人の意見は大きく食い違った。中田は高い位置、福西はペナルティ・エリアに近い低い位置を主張した。中田の考え方は、ヨーロッパ基準でみれば正しい。しかし、日本代表のレベルにはいまひとつマッチしていなかった、と今にして思う。福西や宮本など、スピードに劣るディフェンダーたちは、最終ラインを高く押し上げて、その背後を突かれることを畏れていたのであろう。
山梨学院大附の守備ラインは深かった。ペナルティエリア近辺に4バック&2ボランチがどっしりと陣取っている。青森山田がどんなに球をまわし続けても、自分たちの防御ラインの内側には入れないという陣形である。こういう深い守備網を敷く場合、前戦と守備ラインとのあいだに大きなスペースができて、クリアボールを敵のMFに拾われ苦戦するケースが少なくない。これが深い守備ラインの最大の泣き所だということをだれもが知っている。
ところが、不思議なことに、中盤にできる大きなスペースを埋めたのは山梨のMFだった。大きなスペースにフリーのMFが走り込んでボールをキープし、そこからトップに縦のフィードが入る。グラウンダーの縦フィードだ。トップの選手はそのボールをダイレクトでサイドにはたく。さきほどまで守備ラインにいたサイドバックの選手は、いつのまにか、タッチライン際のオープンスペースに走り込んでいて、危険なクロスが青森山田のゴール前を襲う。自軍ペナルティエリア付近でボールを奪ってから、わずか3~4本のパスでシュートに至る典型的な速攻カウンター。対する青森山田の攻めは、日本代表のそれを再現しているかのような「つなぐサッカー」だった。パスサッカーと言えば聞こえはよいが、要するに「ボールをもたされているサッカー」である。
「上手いチームにはボールをもたせる」という鉄則を山梨学院大附は実践してみせた。中盤ではキープさせるが、最終ラインは決して崩させない。ラインの手前でボールを奪い、3本パスを通せば敵のゴール前。
速い縦のフィードが通せるチームは怖い。いまの日本代表の中盤も横パスばかり。緩いスルーパスで敵陣を切り裂けるのはアジア・レベルであって、オランダやデンマークには通用しない。山梨は縦パスだけでなく、前戦の縦勝負も目立った。ボールを横にはたくのではなく、縦に走って1対1の勝負を仕掛けてくる。
ペネルティエリアの少し外側でボールを奪うという意志統一。中盤にできるオープンスペースへの走り込み。前戦に向けての速い縦のフィード。パターン化したサイドバックのオーバーラップ。1対1の勝負に挑むストライカー。それらを総合化した堅守速攻のリアクション・サッカー。いまの日本代表に足りないものばかり、山梨はみせてくれた。日本代表を小型化した青森山田を、リアクション・サッカーの山梨学院が圧倒し、粉砕したゲームのように思われた。
- 2010/01/13(水) 00:00:02|
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