ジェフ・ベックの新作『エモーション・アンド・コモーション』をすでにお聴きになりましたか。7年ぶりのスタジオ録音です。メンバーはライブ@ロニースコッツ倶楽部と同じ。Tal Wilkenfeld (bass), Vinnie Colaiuta (drums), Jason Rebello (keyboards)です。
いや、凄い。ロック・ギタリストがこれほどの高みに達してしまったということに驚きを禁じえません。だれだったか忘れたけれども、ロック・ギタリストは「ジェフ・ベックとジェフ・ベック以外に分かれるだけ」と言ったそうですが、もっとひろく、エレクトリック・ギタリスト全体をみわたしても、「ジェフとジェフ以外」という分類を受け入れざるをえない状況に至ってしまいましたね。ジャズ、フュージョンのどんなギタリストを引っ張り出してきても、ジェフには敵わない。ロックという音楽ジャンルがあまり好きでなく、ジャズをこよなく愛してきたわたしがそう言うのだから、結構説得力があるでしょう?
このブログでジェフが初登場したのは、2008年の
大晦日。その一年で最も衝撃をうけたギタリストとしてジェフの名をあげました。これには自分でも驚いた・・・ヨークやディアンスの作品を必死で練習していたわたしが、年間最優秀ギタリストに選んだのがジェフ・ベックだったんですからね。その2ヶ月後、埼玉スーパーアリーナでベックとクラプトンの共演コンサートをみて、ますますベックの虜になっていきました。あの日のジョイント・コンサートについては、「
ア・デイ・イン・ザ・ライフ」というシリーズでレポートしていますが、このビートルズの代表的なバラードのカバーは、2009年度グラミー賞ロック・インストルメンタル部門の最優秀作品に輝きました。まことに妥当な評価ですね。フィギュアの世界でも、こういう真っ当な審査をしていただきたいものです。

『エモーション・アンド・コモーション』の中身については、ここでとやかく書きません。そのタイトルのとおり、「情緒と激情」が交錯した期待に違わぬ新作です。ともかく音色からちがいます。ジェフ以外とジェフでは全然ちがうんだから。最初のスローな出だしのブィ~~ンというギターの音を聴くだけで唸ってしまいますからね。4曲めに「虹の彼方に」が入っています。ユーチューブではお馴染みの演奏ですが、スタジオ録音は初めて。素晴らしい。8曲めは、なんと「誰も寝てはならぬ」。荒川静香の「トゥーランドット」ですよ。これをオーケストラをバックに弾いてるんです。いや、凄い。
荒川静香は、いずれ、ベックのギターで「トゥーランドット」を舞うことになるでしょう・・・以上はもちろん「情緒」の代表作ですが、一方の「激情」、すなわちブルースロック系の曲も期待どおりでして、3曲ばかり女性ボーカルも加わってますが、ベックのギターにボーカルは要らないね。ただ、相変わらずカリウタの歌伴ドラムは冴えてます。カリウタ、最高!
そのベックがまた来日しました。ところがですね、メンバーが全然違うの。1年前の埼玉スーパーアリーナーでは、ロニースコッツのメンバーのなかでジェイソン・ラベロが外れてディビッド・サンシャスがキーボードを弾いたんですが、今回の国際フォーラムではジェイソン・ラベロが復活して、カリウタとタルが外れたんです。カリウタが聴けないのは残念この上ないのですが、代わりのドラマーはナラダ・マイケル・ウォルデン。かの『ワイアード』でドラムと作曲を担当したウォルデン。いまや超大物プロデューサーだそうです。ベースは、ウォルデンが紹介したらしいロンダ・スミスという女性。プリンスのバンドで十年プレーしていたというから、たぶん30代ですね。ベースに関しては、タルでもロンダでも、わたしはどっちでもよいです。男性だって構わない。問題はドラムなんだな。ジェフ・ベックのリズム・セクションで最も重要な存在はドラムスです。もちろん、ウォルデンは世界有数のドラマーですから、ベックのギターに対向しうる迫力は十分ありました。でも、やっぱり、わたしはカリウタがいいな。ウォルデンは、わるく言えば、ボブサップが太鼓叩いているような感じでして、迫力満点なんですが、カリウタのドラムは歌心があるというか、激しいだけじゃなくて打楽器が唱っているような繊細さがありますからね。長距離運転の音楽で、まず『エモーション・アンド・コモーション』、そのあとに『ベスト・オブ・ナラダ・マイケル・ウォルデン』を配して聴き比べたんですが、両者の差は無限大でありました。後者はただのファンク・フュージョンでございます。やっぱり、ベックにはカリウタ、クラプトンにはガッドだね。少なくとも、わたしの中ではそう決まっています。
ジェフ・ベックは65歳ですよ。芸術は還暦からだね。まだ先は長い。おじさんたちは、諦めずにギターの練習を続けましょう!
- 2010/04/25(日) 23:40:25|
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