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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。
イングランド戦評
韓国戦の悪夢から日本代表が蘇生し始めている。新聞報道によれば、スイス入りしてから、選手たちは自主的な話し合いを始めたという。川口の招集で選手全員があつまって1時間以上議論したというその成果がイングランド戦にあらわれていた。逆転による1-2の悔しい敗北ではあったが、イングランド代表選手とカペッロを本気にさせた点で、いまの代表チームを評価してやろうではないか。
この日のシステムは4-1-4-1(岡田は4-1-2-3と表現しているらしい)。前回のドイツW杯で流行ったシステムだ。イングランドもまたエリクソン元監督がこのシステムを採用し、1トップで前線に孤立したルーニーと衝突したことはよく知られていよう。
日本の4-1-4-1は正解だった。前日からこのシステムの採用が報道されており、トルシエの3-6-1のアイデアとも近く、W杯仕様のシステムとして決して悪くはないと思っていた。じじつ、岡田のいう4-1-2-3と同じアイデアを、わたしは昨年9月12日の記事(
ガーナ戦評
)で披露している。わたしと岡田の発想の違いは、このシステムの心臓となるアンカー(わたしは古い世代なので「
ワイパー
」という言葉を使ってきた)の人選である。わたしはアンカーに稲本を起用し、稲本を中心とするチームづくりをおこなうべきだと主張してきた。ところが蓋をあけると、アンカーに起用されたのは阿部だった。阿部はW杯で通用するのだろうか・・・今回に限っていうと、阿部のアンカー起用は正解だった。「水を運ぶ」選手が一人増え、センターバック前のスペースに「
パチンコの釘
」が一つ増えた格好になって、イングランドは中央を攻めあぐねた。
阿部の活躍で、オシム時代のサッカーに少しだけ戻ったような錯覚すら覚えた。それにしても、稲本はどうしたのだろう。控え選手団の映像にも映っていなかった。怪我がひどいのだろうか。前にも述べたような記憶があるのだけれども、センター・オブ・ミッドフィールドはビエリ型とマケレレ型に分けられる。前者はストッパーからゲームメークからゴール前への飛び出しまで、なんでもできる万能選手。まさにチームの心臓である。フランク・ライカールトやアントラーズ時代のジョルジーニョがこのタイプだ。ビエリを含めて世界のベスト11に入るような選手でないとなかなか務まらない。後者はいわゆる「守備的ハーフ」として献身的に汚れ役に徹する雑用係。「汗かき役」と表現すべきか。日本代表では、森保→本田→福西→鈴木→長谷部という系譜がある。稲本はビエラ型の選手であり、阿部はマケレレ型の選手である。こうしてみると、アンカーにふさわしいのはたしかに阿部のほうだろう。
阿部の前の2枚の中盤は遠藤と長谷部だった。遠藤は韓国戦で完全に消えていたが、この日はそこそこの存在感を示した。とくに前半の中頃、1タッチパスを数本つないだ場面があったが、ああいうサッカーの中軸に必ず遠藤がいる。そのほか何回か攻撃で「溜め」をつくった。しかし、遠藤の場合、「パスのためのパス」という指向性が強く、崩しのパスはほとんどみられない。守備もしつこくない。わたしなら、遠藤のポジションに稲本をおく。稲本は当たりが強くてボール奪取能力が高いだけでなく、スルーパスを通す力があり、点も取れる。ビエラやライカールトやジョルジーニョのような力を発揮できる唯一の日本人選手だと思っている。
さて、本田である。出来はよくなかった。1本のミドルシュートが敵の驚異になっただけで、あとは仕事らしい仕事をしていない。VVVやモスクワでの、あのフィジカルに強い姿をついぞ代表ではみせてくれない。本当に冗談ではなく、「ユーチューブの中だけの選手」だと揶揄されても仕方のない出来だろう。中田英寿にはほど遠いレベルであり、世のサッカーフリークたちは過大評価が過ぎるのではないだろうか。中村俊輔を悪者にして、本田を「正義の味方」に仕立てる輩がやたらと多いけれども、中村がコンディションをあげてセルティック時代のプレーレベルに近づいたとすれば、本田ではなく、断固として中村を使うべきだと私は思う。もちろん、コンディションの悪い中村を使う必要はないが、だから前線は本田に任せるというのは如何なものか。俊輔のコンディションはたしかに悪いが、本田のコンディションも良くない。冷静に韓国戦とイングランド戦を振り返るならば、そう判断するしかないのではないか。右サイドの高い位置で使える他の選手はいないのだろうか。石川の不選出が惜しまれる。駒野はどうだろう??
今日の敗因は、監督の采配だとわたしは思っている。テストマッチだから「勝つ必要がない」と思っているとしたら本当に嘆かわしいことである。世界ランク8位のイングランドにもし勝っていたら、岡田と日本代表に向けられているサポーターの刃も鞘に収まり、一気に本戦への期待感が高まっただろう。敗因は、大久保を松井に替えたことである。大久保は左サイドで献身的なプレス・ディフェンスを続けていた。イングランドは大久保をとても嫌がっていたし、右サイドからの攻めが思うに任せないことで悩んでいた。大久保が下がって松井が入ったその瞬間、オープンになった右サイドをイングランドは突いてきた。その攻めがトゥーリオのオウンゴールにつながったのである。松井に大久保のような守備はできない。また、松井のドリブルはイングランドの守備網を切り崩せない。日頃からもっと凄いドリブラーの相手をしている連中にとって、松井レベルのドリブラーはカモでしかないだろう。
というわけで、本日の結論を述べると、
1)阿部のアンカー起用は正解
2)遠藤のポジションを稲本に替える
3)本田を絶対的なエースとみなすのは過大評価であり、
中村俊輔や他の選手との入れ替えも視野に納めておくべき
ということになる。参考資料として、1995年と2004年のイングランド戦(ユーチューブ)を貼り付けておくが、相馬のオーバーラップからのクロスがじつに見事に決まっている。こういう仕事をだれがするのか。長友はよいとして、右サイドを内田にするか、駒野にするか、今野のままか、悩ましいところであろう。
繰り返すけれども、イングランド戦の出来は決して悪くなかった。前線から最終ラインまでプレスが効いてよい守備ができてきたし、ダイレクトパスを多用した球回しで相手を翻弄した時間もあった。岡田が的確な用兵と采配をすることができれば、グループリーグでの勝点獲得も夢ではない。そう思わせてくれたゲームであり、次のコートジボアール戦も期待したい。
2010/05/31(月) 03:48:15
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