ドラゴンの海 恋物語 卒業研究の〆切が近い1月26日の夕刻、外に食事にでる時間も惜しいので、研究室で
鍋を囲んでいるところにNHK東京の女性ディレクターから電話が入った。ハロン湾に取材に行って番組をつくるので、情報を提供してほしいという依頼であった。2本の論文を送信したほか、とりあえずクアヴァン村を訪問して、カルチュア・センターで情報を収集し、村長のチョーさんに会いに行くのがよいだろうと答えたように記憶している。
5ヶ月を経た5月28日、再び連絡が入った。翌29日(土)、ハロン湾の番組が全国放送されるという。
5月29日(土) NHK 総合
AM9:25~9:54
「世界遺産への招待状」 TRAVEL41
ベトナム ドラゴンの海 恋物語 ~ハロン湾~
鳥取の下宿は地上波が映らないので、奈良にいる娘に録画を依頼したのだが、「ゲゲゲの女房」とバッティングしてしまい、その週末は番組を視ることができなかった。しかし、先週になってNHKからDVDを送られてきた。網代で
一夜干しスルメを仕入れた木曜日の夜、ゼミ生とともにDVDを視た(少々スルメを食べ過ぎてお腹を壊した・・・)。

驚いたことに、主役はチョーさんだった。前半はチョーさんの語りを通して水上集落の歴史と今が語られる。後半が「恋物語」である。カルチュアセンターで働く末娘のハンさんに陸の恋人ができて、彼氏がチョーさんに挨拶に来ることになった。観光船の運転手をしているその若者が筏の上に降りても、チョーさんは視線をあわそうとしない。若者は、まだ十分にマナーをわきまえているわけではないけれども、「結婚を前提にした付き合いを認めてほしい」と必死に訴える。チョーさんはとまどいを隠せない・・・が、渋々その申し出を受け入れた。若者が去ったあと、チョーさんはハンさんを連れて東海皇官(龍神)の廟を参拝する。そこで、「たとえ陸に嫁入りすることがあっても、この水上の村のことを忘れてはいけないよ」と諭し、娘は首を縦に振る。番組はここで終わるが、放送後、女性ディレクター経由で、二人が結婚したという朗報が届いた。ただし、新郎新婦が海に住むのか、陸に住むのかは知らされていないという。
衛生委員のロックさんのことも気になったので、ディレクターに訊ねてみた。返事は「ロクさんは撮影をしませんでしたが、お元気そうでしたよ。(小舟に乗っていらっしゃるところをすれ違いました)」。やはりロックさんはクアヴァン村に戻ってきているのだ。チョーさんも、ハンさんも、ロックさんもハロン湾とクアヴァン水上集落を愛している。かれらと接した者なら、だれだってそのことを承知している。かれらにとって、「陸」はかりそめの理想郷にすぎない。「陸」に夢を求めた者たちもいずれは現実に直面して落胆し、永遠の理想郷がじつは故郷にあることに気付くことになる。海に住むほうがよいと水上居民は心の底で確信している。だから、ハンさんの朗報を祝福したい一方で、その幸福に一抹の不安を覚えるのも事実である。これ以上余計なことを書いても仕方ない。あの極楽のような景色のなかで、心を水に洗われながら、ハロン湾の漁民たちは未来を生きていくだろう。(完)
*ハロン湾の調査については、以下をご参照ください。
「越南浮游」2006
http://asalab.blog11.fc2.com/?q=%B1%DB%C6%EE%C9%E2%DE%E2%A1%CA 「越南浮浪」2007
http://asalab.blog11.fc2.com/?q=%B1%DB%C6%EE%C9%E2%CF%B2%A1%CA 「越南慕情」2008
http://asalab.blog11.fc2.com/?q=%B1%DB%C6%EE%CA%E9%BE%F0
- 2010/06/07(月) 12:56:24|
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