トチ葺き屋根と芝棟 トチ葺き屋根と間伐材の関係 建築のビオトープ化を実践するためには、周辺の景観に配慮することが大前提であり、必然的に拠点施設の棟高を抑える必要がある。つまり、できるだけ緩い勾配の屋根を使うべきであり、今回はトチ葺を採用することにした。トチ葺とは、三徳山三仏寺などで多用される木片葺で、45℃が基本となる茅葺きなどに比べ緩い勾配とすることが可能であり、勾配は思い切って3.5/10まで緩くした。トチ葺は間伐材の大量利用が可能であり、「森林整備」の目的にかなった屋根葺きの構法であるけれども、維持管理には長短両面がある。屋根の維持管理を重視するならば、板下地の上に直接鉄板葺きとするのがよい。しかし、その場合、間伐材の使用料は極端に減る。トチ葺きの上に鉄板を被せる手もある。こうすれば、間伐材の使用料を多くできて、さらに長寿命の屋根になるだろう。しかし、その場合、間伐材の持続的な使用は抑えられる。トチ葺き屋根を露出することで、一定期間ごとの葺き替えや修理が必要になり、持続的な間伐材の活用が可能になるだろう。建物のメンテを最重視するのか、間伐材の持続的な利用は最重視するのか、慎重に検討すべきだが、審査委員会のコメントには「維持管理」と「経費」の問題が挙げられ、間伐材の継続的な活用については言及していない。
繰り返すけれども、今回のコンペは間伐材の活用による森林整備や、地域産材の有効利用の促進が本来の目的であり、それに敬意を払わぬ木造建築は事業の主旨にそぐわぬものと批判の対象になるだろう。定期的にメンテナンスをおこなうことで、間伐材・地域産材の持続的な利活用が可能となり、地域の林業復興に貢献できると確信している。
トチ葺の下地は、ASALABが4年間修復活動に携わった加藤家住宅プロジェクトで成功を納めた構法を採用した。まず垂木上に横板の天井を張り、その上に桁を敷く。そして、桁の上には竪板を渡して屋根下地とし、防水シートを敷き詰めた上でトチ板を葺き重ねる。竪板と横板のあいだには1尺ばかりの隙間ができ、これが断熱層として有効に機能する。トチ板は厚さ1㎝、長さ60㎝として、20㎝ごとに上の材を重ねていく(葺足は40㎝となる)。軒先では垂木を切り落とし、やや厚めのトチ板を重ねる。これで社寺建築にみまがうほどの軒付が完成する。また、軒樋については、維持管理を考えると銅製のものを採用せざるを得ないが、枠板で囲うことで周囲の景観に配慮している。
ハイサイドライト 屋根は緩勾配で、流れ寸法の総長が7mにもなるため、屋根の中間部を立ち上げて、2段のシコロ葺きにする。これにより、ボリュームを分節・軽減している。さらに、その立ち上がり部分はフロートガラスを用いた窓枠をはめ込み、自然光を建物内部へ取り込むハイサイドライトとしている。このハイサイドライトの内法高は28㎝と短いが、これは軒付の寸法とあわせたものである。決して大きなガラス窓ではないけれども、四周全域にめぐらせることでその総長はおよそ55mにもなり、1日を通して安定した光量を取り込むことができる、自然採光に有効な装置として期待される。
芝棟 屋頂部には「芝棟」を作る。芝棟はおもに東日本の民家にみられる棟の処理であり、一説に屋根が土で覆われていた時代の名残であろうとも言う。長いプランターを棟に置き、それをつっかい棒でとめる。この、つっかい棒は同時にサス兼垂木の役割を果たしており、その上に竹小舞を配して茅を葺く。葺厚は15cm程度で、プランターを隠す化粧材であり、防水機能を完備した本格的な茅葺である必要はなく、場合によっては、学生の手で差し茅・葺き替えをすることも可能である。(葺き替えにはビオトープに自生するススキを使う)。雨水やプランターからの排水は、下層のトチ葺屋根で下に流す。審査委員を務めた事務局長は「芝棟の維持管理ができない」と述べたが、「ほったらかしにすればよい」というのがわたしたちの考えである。東日本の民家でも芝棟は放置しているだけで、特別なメンテを施していない。それでも、毎年、ユリやノカンゾウの花を棟に咲かせるのである。 (タクオ)
- 2010/06/13(日) 00:00:59|
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