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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

ブロッサム・ギャラリー(Ⅹ)

新かんせー3
 建築の非建築計画


 「ブロッサム・ギャラリー」は、副題の「建築のビオトープ化」を実現するために、「建築計画」と「建築の非建築計画」を併行して考える愉快なプロジェクトであった。
 ASALABは、いうまでもなく、木造の文化財建造物を中心とする調査研究と復元設計をおもなテーマとしている。今回のサステイナビリティ研究所の作品はわたしたちが最も得意とする木造建築の修復・復元ではなく、これまで蓄積した歴史的建造物の知識を現代建築の設計に活かすことが一つの課題であった。さらに今回は、ビオトープという「自然」との共生をめざしている。ビオトープという「自然」とサス研拠点施設との共存が大きな課題であり、その結論として建築そのものをビオトープ化しようという発想が芽生えていった。その結果、研究所の「非建築計画」(自然化計画)が必要不可欠となったのである。木造建築として民家構法のサス兼垂木や社寺建築のトチ葺きなどの伝統構法を取り入れながら、生物多様性を表現する緑化パーゴラ、芝棟の多彩な植栽で建築を覆い、建物本体を見えにくくすることで拠点施設をビオトープ化し、既存のビオトープとの景観融合をはかった。総括するならば、わたしたちは「歴史とエコロジー」を環境共生型の「未来」建築の原泉にしようとしたのである。これに対して、ある審査委員からは

  「サステイィナビリティ研究所というよりも自然環境研究所?」

という訳の分からぬコメントを頂戴している。いまわたしたちの手元には審査員の全リストがある。いったいどの委員がこのコメントをしたのか、ぜひとも教えていただきたい。できれば、少し掘り下げた議論がしてみたいのである。


「維持管理・コスト」の問題

 ブロッサム・ギャラリー(Ⅰ)で述べたように、学生に向けての「アイデア」コンテストであるにも拘わらず、審査員のコメント一覧には「維持管理」と「コスト」に係わる内容のものが反復的に記してあった。アイデアを呈示せよ、というから学生は頭をひねってアイデアを呈示しただけでのことである。しかし、アイデアに対する評価はほとんどなく、ただ「維持管理」と「コスト」にばかりケチをつけているのをみるにつけ、「学生のアイデアを潰したいのだろう」と詮索したくなるのは一人や二人ではなかろう。表彰式では、「学生のアイデアをできるだけ参考にします」という発言があり、それは後に手渡された「講評」にもしっかり書いてある。けれども、設計業者からの連絡はナシのつぶてであり、おそらく業者独断での設計が進められているのであろう。本来ならば、設計業者は優秀作品の代表者と情報を交換し、「このアイデアをこういうふうに修正して、コストダウンやメンテの向上をはかりたい」などの提案があって然るべきだが、そのような動きはまったくない。委員会が設計業者に「独断での設計」を指示していると推測せざるをえないのである。
 さて、今回わたしたちは、基本設計に近いアイデアの呈示を目指し、芝棟の無管理計画やトチ葺きの鉄板被覆案などの維持管理やコスト削減手法も提案してきた。それはパネルにも示しているし、ヒアリングの質疑応答でも述べている。ただ、説明不足の部分もあるので若干補足しておきたい。
 小屋組で使用する湾曲材はできるだけ「野物(のもの)」を使うようにする。民家の古材が入手出来れば最善であるが、難しいだろう。マツの野物が最適ではあるが、入手困難な場合は「集成材」でもやむをえない。間伐材を利用した集成材を用いるのも一つの手だと考えている。また、暖房設備については「木洩れ陽のロビー」におく山田型ストーブのみであるが、今回は夏を旨として設計にあたったため、冬は薪ストーブの熱が届かない一部の部分ではやはり空調設備を取り入れなければならないだろう。今回は省略したが、断熱材・床暖房なども検討すべきと考えている。

 今回のコンペはASALABの専門領域である「復元」設計ではなく、木造の環境共生建築の設計であった。それでも今まで培ってきた実績を存分に取り入れ、「歴史とエコロジー」を現代に活かした設計をすることで、ASALABらしい作品ができあがったと思っている。これから着工されるサステイナビリティ研究所にどれほど学生のアイデアが取り入れられるのか。アイデア・コンテストがたんなる「アリバイ」ではなく、拠点施設の実現に貢献することを期待したい。(完)

  1. 2010/07/05(月) 00:09:29|
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