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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

サス研拠点施設を見学して

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 1月29日午前の集中講義「産業企業研究」では、2月末の竣工を目指し、只今工事中の本学サステイナビリティ研究所について、設計事務所や建設会社の方がたの講義を聴き、現場を視察しました。LABLOGの読者の方ならまだ記憶に残っておられるかと思いますが、昨年5月にサス研の学生アイデアコンペが開かれ、ASALABも「ブロッサム・ギャラリー」を作品として提案し、優秀賞を獲得しました。コンペ当時は主催側の運営にずいぶん悩まされました…じつは私は昨年この授業の単位をとっているのですが、上のコンペのこともあり、この日のみ今年度も授業に参加することにしたのです。

 「サステイナビリティ研究所の設計」と題する最初の講義で設計者によるサス研の基本計画が説明されました。木構造の良さを素直に生かした素朴なデザインをめざし、以下の4つの視点から検討をおこなったとのことだそうです。

  1)本学との建築景観の調和
  2)木材の利活用の工夫
  3)自然エネルギーの活用
  4)コンパクト化とコスト縮減

 また、学生コンペで提案されたアイデアもいくつか取り込まれているようで、一体どれほどの学生のアイデアが実現したのか、実際コンペに参加した者としては気になるところではあります。
 建設中の建物は私たちが普段活動している研究棟からも外観を見ることができるのですが、コンペの参加者に対してすら公開されることがなかったので、内部がどのようになっているのかという好奇心はふくらむばかりでして、いざ現場へ。建築を学ぶ学生にとって、竣工前で施工中の現場にお邪魔できるというのは大変貴重なことです。竣工してしまえば誰でも見ることも入ることもできてしまいますからね。現場に到着するやいなや、早速内部の見学に。すでに躯体は組みあがり、内装の施工をおこなっている最中で、私たちが見学した際には職人さんたちが床板を張っておられました。

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 一通り施工現場を見学し終わり、施工業者さんへの質問の機会を設けていただきました。
 まず設計者さんの言うサス研の基本計画の一つである本学との建築景観の調和についてですが、研究室、ギャラリーのボリュームを素直に表し、外部からの分かりやすさをデザインに生かし隣接する本部講義棟との調和を図るというものです。その計画理念を最も表現しているのは、なんといっても屋根でしょう。外観を見てただちに感じるのが、木造にしてはなにやら屋根が平べったいと言うこと。多少勾配が付いているように見えますが、この緩やか過ぎる屋根は隣接する本部講義棟(コンクリート造)のそれを模しており、これで本学との建築景観の調和を図っていると思われます。しかしながら、勾配の緩い屋根は山陰の気候に適していません。屋根はその土地の気候風土に合わせた形状をしているものです。今や全国的ニュースでも騒がれるほどの豪雪地帯である鳥取県でこの屋根形状はいかがなものか。実際、正月以来、毎日のように屋根にあがって雪下ろしする風景をみてきました。コンクリート造ならいざしらず、木造建築においては、屋根の勾配と軒の出は建物の生命線というべきものです。
 それをみて、だれかが口にしました。

  「まるで中央アジア乾燥地帯の屋根みたいだねぇ・・・」

 この「ほぼ陸屋根」のおかげで、木造建築らしい伝統的な小屋組も失われています。木造建築の魅力とは、小屋組に最もよくあらわれるものですが、梁の上に短い束を立てただけの小屋組をみて失望したのはわたしだけではないでしょう。こういう小屋組にすると、天井が張れません。屋根の下に天井を張ることで断熱層が生まれ、夏の暑さや冬の寒さを凌げるのですが、これだと外気の温度がじかに内部に伝わるので、空調設備への依存度が著しく高くなるでしょう。コンペの一大目標であった「環境建築」の根本が屋根から大きく揺らいでいるように思えてなりません。
 外壁の板張りにも疑問を覚えました。相欠き仕口で横板を積み上げているのですが、そのままでは倒れてしまうので、「縦桟」(写真↓)で何ヶ所か横板をおさえています。その縦桟がなんともぶっきらぼうにみえるのです。管柱風の間柱を立てて下見板にするほうが雨には強いし、デザイン上も美しくみえると思うのですが・・・
 自然エネルギーの活用については、壁面緑化(次期工程)をはじめ県産材の活用、自然風の利用(高窓)、天空光の利用(ハイサイドライト)、薪ストーブ、雨水利用など学生側からのアイデアがいくつか取り込まれている模様で、実現に至らなかった提案もありますが、心の隅で思っていた「全く学生のアイデアが配慮されていない」という最悪の事態にはならず、いささかホッとしています。コンペを主催しながら、実施設計の内容を公開せず、学生とのコミュニケーションを断ってきた主催者に不信感が拭えませんでしたが、集中講義のおかげで、設計・施工の内実を知ることができたのは良かったです。

 最後に、どうしても言っておきたいことがあります。サス研拠点施設建設の目的は、コンペの募集要項にもあったとおり、「森林整備加速化・林業再生事業による公共施設の整備」(農水省・林野庁)及び「緑の産業再生プロジェクト事業」(鳥取県)に係わるものであり、「地球温暖化防止に向けた森林吸収目標の達成と木材・木質バイオマスを活用した低炭素社会の実現が求められる中、間伐材等の森林整備の加速化と間伐材の森林資源を活用した林業・木材産業等の地域産業の再生を図る」ことを目的とするとあったはずです。しかし、間伐材はどこにも用いられていません。確認の質問をしたのですが、「県産材を使ってはいるが間伐材は使っていない」とのことでした。とすれば、本来の目的である森林整備に関する貢献はどこへいってしまったのか、疑問に思わざるを得ませんでしたね。

 しかしながら、雪降りしきるなか、ほぼ毎日のように作業に勤しんでいる職人さんと監督さんには頭が下がります。忙しいなか学生のために現場を公開していただきありがとうございました。(轟)

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  1. 2011/02/06(日) 00:00:16|
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