自己を外側から冷徹にみつめる能力に加え、若くして「一瞬の死」を経験したという告白から邪推するに、山口百恵は生きながら4次元世界を浮遊できる「力」をもっているのかもしれない。山口百恵は時空を超越できる。そんな魔力を隠すために引退したのだと書いたら、みなに嗤われるだけだろう。しかし、『蒼い時』の前半部分では、自ら近未来を予知する能力があると述べている。人生のさまざまな分岐点において、AかBかの選択を迫られたとき、いつでも選択すべき未来がみえて、未来予想図のとおりの結果に落ち着くというのである。だから、「スター誕生」で何回予選を繰り返そうと、阿久悠の厳しいコメントに晒されようと、「落ちる気がしなかった」という。結婚を機に「引退」か「仕事を続ける」かで迷ったときも、「引退」を選ぶことで幸福になるという予感があったから、引退するのだと彼女は言い切る。
いままで何度も芸能界復帰の要請があった。にも拘わらず、復帰を拒絶してきたのは、彼女の選択が正しかったことの証にほかならない。家庭にいることで、彼女は平凡ながらも、子供のころ経験できなかった家庭の幸福を感じているにちがいない。
いまなぜ、さして興味をもたなかった山口百恵の『蒼い時』を読んだのかと言えば、すべての原因は、ちあきなおみにある。ちあきなおみのCDを何枚も購入し、毎夜のようにユーチューブの映像を探っているうちに、若干19歳で紅白のトリを務めた山口百恵の映像にであった。そういえば、山口百恵も引退したまま表舞台に姿をあらわさない。なぜだろう。その訳を知れば、ちあきが芸能界に復帰しない理由のヒントがつかめるかもしれないと思ったのである。『蒼い時』を読んで、ちあきなおみが歌を歌わなくなった理由が分かったということは決してない。しかし、山口もちあきも、芸能界に戻りたいならいつでも戻れる卓越した表現者である。それが表舞台に姿をみせないのは、いまいる生活世界の住み心地がよいからだろう。なにも苦労して、あんな世界に戻らなくても、今の生活で十分楽しい、と感じているだけのことではないか。
ありきたりの結論かもしれないが、いまのところ、そんなことしか思い浮かばない。
↑ちょっと鳥肌がたちました。
- 2011/02/17(木) 12:44:15|
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