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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

姫墓をめぐる課題

02池田02


 あれはシータが1年生のときだから、おおよそ3年前か、「魔法の山」プロジェクトチームで池田家墓所を訪れ、休憩室でミーテイングをした。あれが最後の訪問だった。
 池田家墓所の修復整備は順調に進んでいる。藩主墓の修復はほぼ半数を終えた。恥ずかしながら、ほとんど委員会に出ることが叶わなくなってしまったが、修復はわたしたちが示した指針どおりに動いていて、大きな満足感をもって整備状況をみることができた。

 来年度から「姫墓」の修復が始まるという。墓碑の下に亀趺(キフ)もなければ、周りに玉垣もない。五輪塔が近世的に荘厳されたような造形で、細い塔身の上に四面唐破風の宝形屋根をのせ、破風下の妻飾りを派手にしている。改めて見直すと、デザイン的には墓所内で最もユニークなものではないか、とも思う。造形に魅力を感じるのは、おそらく、四面唐破風の「笠」部分が塔身に比べてずっと大きいからだろう。細身の1本柱の上に軒の出の長い唐傘のような屋根を載せているところが、重力に逆らっているようにみえておもしろいのである。
 その反面、危険な構造であるのは疑いない。重力に逆らえば、壊れやすいのは当たり前で、地震などの横力が加われば、「笠」はころんと転げ落ちてしまうであろう。いったいどのようにして、笠を塔身に接合しているのか。まずはいくつかの姫墓を解体して、接合の実態を把握し、横力に対抗できるだけの措置を施す必要があるだろう。でなければ、見学者が大けがをする不安をぬぐえない。

02池田04律姫  さて、左の写真をみてください。五代藩主正室律姫墓です。律姫は桑名松平家の出で、没年は明和3年(1766)。すでに笠は失われ、塔身の上端も欠けている。これを復元したいということで、すでに立派な図面が完成していた。復元の方法は、そんなに難しいわけではない。没年や規模などの類例から、それらしい意匠をでっちあげるわけです。わたしたちも同じような方法で、いろんな時代の建築を復元してきている。しかし、それはあくまで図面やCGなどの表現にとどまっている。池田家墓所の場合、類例のパッチワークによる想像復元の産物が下の塔身の上にのるわけですが、みなさんはどうお考えでしょうか。
 わたしは、こういう「復元」に反対しています。律姫の墓は左のままでよい。塔身が倒れないように、みえないところで補強してやれば、それで良いと思っています。上に述べたように、それらしい笠を作ることはできます。しかし、その笠は律姫の墓にのっていたものではない。姫一人ひとりで、笠や塔身の意匠・造形はすべて異なっている。別の姫の意匠を律姫の笠に採用してよいものでしょうか? 律姫が怒って墓の下から出てくるんじゃないか、と(冗談じゃなく)心配しています。


02池田03


 上のように、笠が劣化して、相輪が失われている場合もあります。これはどうしたものか。担当の文化財主事さんは、「相輪は意匠が統一されているから復元は容易である」と説明してくれました。ところが、よくみると、相輪だけでなく、軒の隅部の破損している。相輪だけ直して、軒を放置するわけにはいかないから、相輪も軒も新しい材をくっつけることになります。まぁ、悪いことではないけれども、わたしなら、やはり「復元」はしません。元あったものがなくなっている、ということに、歴史的な意義を認めているからです。
 主事さんには言いました。タイやカンボジアの世界遺産をみてきたほうがいいよ、と。スコータイやアユタヤやアンコールで石造のモニュメントがどんなふうに修復されているのかを視察しておいたほうがいい。日本人はなんでもかんでも「復元」したがるけれども、ヨーロッパでも(日本隊をのぞく)東南アジアでも、壊れたものをそのまま保存しているのだから。時間がたって壊れて、それがいまある姿になったんだから、その姿を残すことに全力を尽くすべきだとわたしは思っています。

02池田01仲姫

  1. 2011/03/13(日) 00:11:42|
  2. 史跡|
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