豫園のスタバ 豫園商城は上海の中華街だ。中国内にあるのだから、どこだって中華街だと反論されそうだが、上海は中国にあって中国ではなかった魔都である。それは租界のためのメガロポリスであり、都市の意匠は欧風にほぼ塗り尽くされていた。バンド(外灘公園)に「犬と中国人、入るべからず」という立札があったことはよく知られていよう。中国人を排除する植民地都市のなかの狭小なエリアに中華街が存在したのだ。昨日も述べたように、そこは近代以前の老城(old town)であった。ここにいう「城」とは、城壁に囲まれた「まち」のことである。その「まち」は租界都市に埋め込まれた土着的な異端のエリアであり続けた。いまは城壁を失っているが、地割にその痕跡をはっきり読み取れる。
この中華街、気分転換にはわるくない。が、なにぶん人が多すぎる。店も多すぎる。土産物の趣味が良いとも言えない。小龍包の老舗として知られる「南翔饅頭店」には長蛇の列ができていて、とてもその隊列に参加する気になれない。方池を挟んで右岸にあるスターバックスも人でいっぱい。なんとか橋をわたって、池の真ん中にある「湖心亭」まで行き、ソフトクリームで一休みした。そのソフトクリームは「ほうじ茶ソフト」。日本の製品である。

スターバックスのことを北京語で「星巴克(シンバーカ)」という。「星」がスターの意訳であるのは言うまでもなかろう。巴克は北京語の発音で「バーカ」だが、広東語では「バックス」に近い音声に変わる。西洋の文化は、なんでも香港経由で大陸に入ってくるので、まず香港で英語の音声に近い広東語の漢字名称が与えられ、それが大陸標準語にもなってしまうのである。たとえば、「麦当労」は広東語では「マクドナルド」に近い音声だが、北京では「マイダンラオ」と読まれる。なんのことだか分からない。
それにしても、日本人なら絶対に「バーカ」などという名前はつけないだろう。店名が「馬鹿」なんて洒落にもならないではないか。じつは、中国人も「バカ」という日本語を良く知っている。極悪非道の帝国主義日本軍を象徴する二つの言葉がある。「ミシミシ(飯飯)」と「バカヤロウ」だ。かつて日中戦争回顧の映画においては、日本人役の俳優が必ず「ミシミシ、バカヤロウ」という科白を口にした。当然のことながら、それらは共産党による大衆教育のための映画なわけだから、老若男女を問わず、すべての中国人が「ミシミシ」と「バカ(ヤロウ)」を脳の奥底まですり込まれてしまっている。
だから、わたしは思う。スタバは中国名を変えたほうがいい、と。

↑陳従周作「豫園」園林は梅が満開。
- 2011/03/15(火) 23:43:35|
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