Lablog
鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。
マクタン通信(Ⅶ)
12弦に魅せられて
ホテルのコテージではネットに接続できなかった。毎夜、仕事のために、ロビーに出て無線LANをつかまえるのだが、ギターを買った翌日の夜は喉が渇いて、カラマンシを飲みたくなり、レストランにパソコンをもちこむことにした。ロビーに近いオープン・レストランの端で無線LANをキャッチできる可能性があるというので、期待に胸をふくらませ、ラップトップを開いたが、結局は駄目だった。つながらない。
すでにバンドの演奏は終わっていた。プールに近い軒下の席で、6弦ギターと12弦ギターの二人が練習している。12弦がリーダーのようで、6弦に対して、小声でコードチェンジを指示していた。カラマンシを飲みながら、しばらくその練習を聴いていたのだが、練習が一休みしたのをみて、バンドのメンバーに声をかけ、オベイション・タイプの6弦ギターに触らせてもらった。やはり弦が錆びている。ファクトリでの試奏と同様に、アルペジオからはじめた。「ジャズギター?」と二人のギタリストは目を見開き、「スタンダードを弾いてくれ」と頼まれた。そんなに弾けるわけはないんだけれども、「酒とバラの日々」「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」「ユードゥ・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」「ミスティ」などを弾いた。チェット・アトキンスも弾いた。
「みなさんもジャズを演るんですか?」と問うと、12弦ギターのリーダーは「いや、バラエティだよ」と答えた。
バンドは4人編成。少し離れた席で休んでいた女性ボーカルが近づいてきて、「あなたのために何か唱いましょうか」とウィンクする。その笑顔をみて断るほど、無粋ではない。カラマンシのある席に戻り、4人に演奏をお願いした。女性ボーカルは得意なラブ・バラードを2曲唱った。日本の女性歌手のバラードである。だれの歌なのか知らない。徳永英明がカバーしそうなラブソングで、とても良いメロディだった。驚いたのはアンサンブルと役割分担である。あれだけ弦が錆びて、チューニングが不安定なのに、乾いた良い音がしている。アンプを通さないと、ウッドベースと12弦と6弦で、じつに味わい深い音の重なりに聴こえる。こういうバンドの演奏を、スリランカと中国のホテルでも聴いたことがある。もちろん、どちらもフィリピンのバンドだった。フィリピンはこういう「ムード・ポップス」系バンドの輸出国でもあるわけだ。エゴを捨て、客のリクエストにあわせて、どんな曲でも耳障りにならないように聴かせなきゃならないんだから、大変な仕事だと思う。「癖」があってはいけない。シングル・モルトとはちがって、個性を消すことが肝心なんだ。
なにより驚いたのは、12弦の使い方である。12弦は、いわゆるサイドギターとしてリズムをカットし、サウンドに厚みを与えるギターだという印象がある。ところが、このバンドでは、12弦がリードで、6弦がリズムになっている。12弦のリードはおもに下の3コースを使うが、ときにトレモロを混ぜる。じつに効果的で、はっとさせられた。考えてみれば、下の3コースは同音2本なので、マンドリンと変わらない。そうか、12弦ギターを使うと、フラマンの代用にもなるわけだ。もちろん、リードギターにもなるし、リズムも刻める。
12弦ギターというと、バーズ(マッギン&クロスビー)とか、ツェッペリンとか、レオ・コッケ(↑)なんかが思い起こされて、あまり実用性を感じさせない代物だったが、このバンドの使い方はおもしろい。次回述べることになるけれども、こういう12弦ギターの扱いは、スペインやポルトガルにおける「マンドリン」系楽器の影響なのかもしれない・・・その証拠に、リーダーの12弦ギターは非常に特殊な形をした小型のものである。「13年前に3000ペソで買ったものをまだ使っているんだよ」と、かれは情けなさそうで、誇らしげに語った。チューニングは普通のギターの「カポ5」状態だという。小型12弦でDを抑えると、普通の6弦ではGになるということだ。ウクレレと同じポジションだね。この小型12弦ギターが無償に欲しくなったのだが、「譲ってくれ」とは言いにくい。
リーダーは「もう1曲どう? ビートルズ・ナンバーで」と問いかける。「アンド・アイ・ラブ・ハー」をリクエストした。待ってましたとばかりに、リーダーは自慢の声を聴かせてくれた。唱いなれている。コーラスも入った。上手いな・・・貧乏なので、300ペソしかチップをわたせなかったが、4人はとても喜んでくれた。
ラップトップをもってロビーに移動しながら、(アレグレ・ギター・ファクトリを再訪してギターを買い換えるしかない)という欲望が芽生えはじめていた。
2011/04/09(土) 00:22:54
|
音楽
|
トラックバック:0
|
コメント:0
<<
マクタン通信(Ⅷ)
|
ホーム
|
マクタン通信(Ⅵ)
>>
コメント
コメントの投稿
Name:
Subject:
Mail:
URL:
comment:
Pass:
秘密:
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURLはこちら
http://asalab.blog11.fc2.com/tb.php/2547-00a2d89f
Author:本家魯班13世
このブログはすでに引っ越しています(月に1度のペースで雑文を書いてはいますが、削除も併行しておこなっています)ここ数年の更新は以下をご覧ください。
Lablog 2G
(http://asaxlablog.blog.fc2.com/)
RSS
08
| 2023/09 |
10
Sun
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
-
-
-
-
-
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
Recent Entries
最後のスフォリアテッラ
(11/01)
競雀(2)
(04/26)
麒麟のひと
(03/23)
2021年度大学院修士論文中間発表
(02/18)
玄
(01/02)
Recent Comments
東尿英機:また外してしまった
(04/27)
ルパン13世:Re: 『摩尼寺「奥の院」遺跡-発掘調査と復元研究-』報告書 希望
(07/24)
新池 陽子:矢部家のこと
(05/09)
矢部:新池様
(05/06)
公爵:
(07/27)
ルパン13世:ルークさんへ
(05/10)
ルーク:ありがとうございます。
(04/23)
Recent Trackbacks
まとめwoネタ速neo:まとめtyaiました【転居のお知らせ】
(05/13)
まとめwoネタ速neo:まとめtyaiました【神々への祈り(Ⅳ)】
(05/12)
まとめwoネタ速neo:まとめtyaiました【神々への祈り(Ⅴ)】
(05/12)
まとめwoネタ速neo:まとめtyaiました【神々への祈り(Ⅵ)】
(05/12)
まとめwoネタ速neo:まとめtyaiました【サテンドール(ⅩⅡ)】
(05/12)
Archives
2022年11月 (1)
2022年04月 (1)
2022年03月 (1)
2022年02月 (1)
2022年01月 (1)
2021年12月 (2)
2021年10月 (1)
2021年09月 (1)
2021年05月 (1)
2021年04月 (1)
2021年03月 (1)
2021年02月 (1)
2020年12月 (2)
2020年09月 (2)
2020年08月 (1)
2020年07月 (1)
2020年03月 (1)
2020年01月 (1)
2019年11月 (1)
2019年10月 (1)
2019年06月 (1)
2019年05月 (1)
2019年04月 (1)
2019年03月 (1)
2019年01月 (1)
2018年12月 (1)
2018年10月 (1)
2018年09月 (1)
2018年07月 (1)
2018年04月 (1)
2018年01月 (2)
2017年12月 (1)
2017年11月 (1)
2017年08月 (1)
2017年04月 (1)
2017年01月 (1)
2016年12月 (1)
2016年11月 (1)
2016年10月 (1)
2016年09月 (1)
2016年07月 (1)
2016年05月 (1)
2016年03月 (1)
2016年02月 (1)
2016年01月 (1)
2015年12月 (1)
2015年11月 (1)
2015年10月 (1)
2015年09月 (1)
2015年07月 (1)
2015年04月 (1)
2015年01月 (1)
2014年11月 (1)
2014年09月 (1)
2014年08月 (1)
2014年07月 (1)
2014年03月 (1)
2014年01月 (1)
2013年12月 (1)
2013年11月 (1)
2013年08月 (1)
2013年07月 (1)
2013年06月 (1)
2013年05月 (1)
2013年03月 (1)
2012年12月 (1)
2012年05月 (13)
2012年04月 (30)
2012年03月 (29)
2012年02月 (29)
2012年01月 (31)
2011年12月 (31)
2011年11月 (25)
2011年10月 (26)
2011年09月 (26)
2011年08月 (31)
2011年07月 (31)
2011年06月 (30)
2011年05月 (31)
2011年04月 (31)
2011年03月 (31)
2011年02月 (28)
2011年01月 (33)
2010年12月 (31)
2010年11月 (35)
2010年10月 (42)
2010年09月 (25)
2010年08月 (31)
2010年07月 (29)
2010年06月 (32)
2010年05月 (31)
2010年04月 (30)
2010年03月 (30)
2010年02月 (28)
2010年01月 (31)
2009年12月 (32)
2009年11月 (30)
2009年10月 (31)
2009年09月 (30)
2009年08月 (31)
2009年07月 (30)
2009年06月 (30)
2009年05月 (30)
2009年04月 (29)
2009年03月 (29)
2009年02月 (22)
2009年01月 (24)
2008年12月 (32)
2008年11月 (30)
2008年10月 (32)
2008年09月 (28)
2008年08月 (34)
2008年07月 (33)
2008年06月 (36)
2008年05月 (34)
2008年04月 (39)
2008年03月 (33)
2008年02月 (28)
2008年01月 (31)
2007年12月 (33)
2007年11月 (34)
2007年10月 (38)
2007年09月 (34)
2007年08月 (43)
2007年07月 (35)
2007年06月 (33)
2007年05月 (35)
2007年04月 (32)
2007年03月 (32)
2007年02月 (28)
2007年01月 (37)
2006年12月 (43)
2006年11月 (51)
2006年10月 (54)
2006年09月 (67)
2006年08月 (64)
2006年07月 (40)
2006年06月 (58)
2006年05月 (34)
2006年04月 (30)
2006年03月 (36)
2006年02月 (31)
2006年01月 (34)
2005年12月 (32)
2005年11月 (32)
2005年10月 (29)
2005年09月 (30)
2005年08月 (41)
2005年07月 (42)
2005年06月 (24)
2005年05月 (13)
2005年04月 (4)
Category
未分類 (301)
史跡 (313)
講演・研究会 (177)
サッカー (213)
建築 (564)
リサイクル (111)
地域支援 (16)
食文化 (134)
研究室 (494)
環境 (24)
スポーツ (29)
音楽 (240)
文化史・民族学 (25)
漫画 (8)
小説 (62)
景観 (143)
生物 (7)
都市 (9)
民芸 (2)
映画 (1)
Links
鳥取環境大学 浅川研究室
Search
アクセス解析
アクセス解析