カメムシソウ ハーブは、当然のことながら、食卓を飾る。いちばんよく育っているのがイタリアン・パセリで、サラダには必ず添えるようになってしまい、子どもたちは少々アーキテクトですが、でも、癖の少ない香草なので食べてくれます。バジルは好評だね。さすが「ハーブの王様」。鉄板焼きの肉にバジル(とトマト)を添えるだけで、すごくおいしくいただけますよ。もっとたくさん植えれば良かった。逆に総スカンをくらってしまったのが、コリアンダーさんです。コリアンダーって分かりますか。中国では「香菜(シァンツァイ)」、タイでは「パクチー」と呼ばれる薬味・・・と書いたら、すぐにイメージできるでしょう。
最近驚いたのは、背丈が伸びて花をつけたのですが、その姿が「
野良人参」そっくりなの。やはりセリ科です。この手の白い花にはカメムシ(鳥取ではヘコキムシという)がよく絡んでいて、近寄りたくないイメージがあるけれども、野良人参はさておき、コリアンダーそのものに「カメムシの臭い」がするとよく言われ、「カメムシソウ」なる和名まで生まれた。わが家の食卓に黙ってあげた際にも、息子と娘は「カメムシの臭いや!」と言って葉を近づけようとしない。人のよい患者が無理してその葉っぱをたいらげてくれたけれども、患者も以来2度と口にしたくないらしく、コリアンダーはただの鑑賞植物と化している。
わたし自身、中国留学時代、香菜には辟易していた。最初にであったのは1983年の甘粛省蘭州。蘭州牛肉ラーメンの本場で、有名なラーメン工場兼食堂を訪ね、製法を学んだあとに、留学生一同、牛肉ラーメンを味わったのだが、その薬味に香菜がわんさとのっかっている。美味しいと言って食べる学生もいた。わたしは駄目だった。強烈なカメムシの臭いに食欲を失った。
中国の場合、このように香菜を薬味として偏愛する地域とそうでない地域に分かれる。南方では福建省が異常に香菜を好む。東南アジアに近い省だから、そういう嗜好があっても不思議ではないけれども、甘粛や黒龍江などの西方や北方で香菜が好まれるのはなぜなんだろう。上海や北京では、香菜を使うのは稀である。しかし、ハルピンで水餃子を注文すると、必ず大量の香菜がのっかってくる。どういう文化の伝播ルートなのか、ほんとによく分からない。
ところで、余談ながら、ラーメンの語源は「拉麺」である。「拉」は「ひっぱる」という意味。「麺」は細い麺のことではなく、偏の「麦」と作りの「面」が示すように、麦粉でつくったパン生地のようなものをさす。そのパン生地を何度も引っ張って細くしていき、いわゆる「メン」ができあがる。

中国で辟易した香菜ではあるけれども、タイのパクチーはそれほど苦手ではない。タイ料理の場合、多種多彩なハーブの組み合わせによって、えもいわれぬ味わいを醸成しており、パクチーの味が突出して強くはないのである。わたしはタイ料理が大好きで、前にも書いたかもしれないが、東方アジアにおける二大料理はタイ料理と日本料理だとおもっている。タイ料理は、素材を数限りないハーブで変容させる複雑化した料理の極致にあり、日本料理は食材本来の魅力を引き出す繊細さの極致にある。中華料理はハンバーグのようなものだ。美味しいから、だれでも食べられる。でも、それは標準的な味であって、突出した味ではない。コカ・コーラやマックよりはましではあるけれども、所詮はそれらと似た万人向けの文明食品であり、奥深さはない。言い換えるならば、日本料理やタイ料理は風土を感じさせるシングルモルトであり、中華料理はブレンディド・ウィスキーのようなものであろう。(完)
- 2011/06/15(水) 00:00:39|
- 食文化|
-
トラックバック:0|
-
コメント:0